校則アンケート分析は、教職員の部に入ります。
回答数は246件。現役8割、退職2割の比率でした。中学高校の教職員が退職者も含め四分の三を占めました。多くの教職員は少なくない疑問や矛盾を感じつつ校則を運営してきた面があります。そんな複雑な思いをかかえつつアンケートに応じてくださった教職員のみなさんに心から感謝します。
今回は、教職員が疑問に感じている校則についてです。その前に回答者の属性を二つの円グラフで紹介します。
9割以上の教職員が校則に疑問を感じていました。アンケートではさらに、「頭髪」「服装」「それ以外」の三つの分野に分けて疑問を感じる校則(勤務校の)を自由記述で書いてもらいました。「頭髪」と「服装」には7割の、「それ以外」には6割の教職員が書き込みました。以下、それぞれ紹介します。
校則への疑問は記述式で書いてもらいました。選択式でないので回答をきれいに数値化することはむずかしいです。上の棒グラフの表は、教職員の回答からいくつかのカテゴリーをこちらで設け、分類してみた結果です。
なお、個々の回答のなかには当然、複数のカテゴリーに言及したものもあります。
以下、個々の回答からいくつかを紹介します。もちろん、全記述を読むこともできるようにしました。
なお、頭髪以外の分野も同様の紹介の仕方としてあります。
★全般(例)
〇頭髪の長さ・色などを決めることは個人の自由意志だが、学校側がその権利を剥奪している
〇中学生らしい髪型の意味がわからない
〇適度なルールをもうけることは必要だと思います。
★髪染め関係(例)
〇染色=非行ではないのに、染色が禁止されているのは不合理すぎる
〇黒スプレーを振りかける
〇黒髪でないと卒業式に出さない
〇毛染めしている生徒に定期テストを受けさせない
〇一度染めた髪を、色落ちしたなどと何度も何度も染め直す措置。健康上の被害も深刻だが、もとは本人が染めたのだから自業自得と強制すること
〇頭髪指導で引っかかったら毛染めをさせる。地毛が茶色でも
〇務校では、たぶん、地毛証明書があると思います。ただし、大阪の裁判以降、扱いはソフトになったように感じます。染色は禁止されているので、黒く染める指導をしているようですが、かなり、説諭をていねいにしています。
〇保護者がクレーマーな場合は強要されない、親を亡くし、地毛が茶色い子は髪を黒染めさせられていた
★ツーブロックなど髪型(例)
〇男子ツーブロックなど段差のある形。判断に悩む。女子は括る場合ひとつのみ。2つはダメ。ゴムの色は黒のみ。男女とも目にかかれば切ってくる
〇前髪が眉毛についたらだめ、短すぎてもだめ。ツーブロック禁止。男子生徒は耳に髪がかかったらだめ(1ミリでも長いとだめ)。
〇極端に髪の毛の色にこだわって検査するところ、ただツーブロックについては高校生らしくないと思ってしまいダメだと思います
〇ある学校では女子の髪は後ろで1本に束ねる、その根拠を職員の誰も説明できないのに、違反者に対して髪を2本で結ぶように指導することを、生徒指導部長より強要された。
★男女別への疑問 (例)
〇ツーブロックなどの髪型の制限は校内の秩序を守るという目的があるため言及しにくいが、そもそも男子・女子規定の髪型があるということ。男女差別を無くすためには幼少期からそういった差別的な事をさけ、偏りのない教育をすべきなのに、未だに何をやっているんだと。
〇男女で、校則の髪型が違う。学校がジェンダー規範を押し付けていることの一例です。恥ずかしいことに、この点では、在職中はあまり、矛盾を感じていませんでした。私自身がどっぷりとジェンダー規範に染まっていたわけですが、今、思えば、『ジェンダー平等』や『性の多様性』の観点からすれば、男女で別の髪型の校則を決めることは、疑問です。
★全般(例)
〇服装違反で放課後学習。勉強が罰になっている。
〇どんな服装で登校しようが、生徒の自由でよい。式典の時だけ、正装ができればそれで充分。靴の色とか靴下の色が決まっているのも謎でしかない。防寒着の色まで決まっていて凍えている生徒もいる。教員の固定観念は病的だとさえ感じる。
〇子供の権利条約に基づき私服登校を認めるべき。
★制服関係(例)
〇制服着用そのものが本当に必要なのか。
〇制服の着方を点検することが定期的にあるが、その時だけ「正しく」着ることを強いて、生徒に面従腹背を植え付けてしまった。
〇決まった期間中は特別な理由で申請しない限り、半袖のみや長袖のみと決められる。衣服で体温調節出来ない
〇制服の着用についてものすごく細かいルールがあり生徒指導以外の教師は覚えられない
〇夏の暑い時に女子にベストを着させるところ
〇女子がスカートのみに限定されていたこと
★靴下関係(例)
〇靴下の色指定、タイツはベージュのみ
〇女子は靴下を三つ折りにすること、という服装規定。
〇女子の靴下の長さを決めている。男子は短くてもよいのに、女子にはハイソックスを強要。
★スカート
〇女子のスカート。男性教師が女子生徒のスカートのたけを見ている。異常。
〇女子のスカート丈をメジャーで測ったり、男子教師もしていた。
〇女子のスカートの丈の指導はあったが、強制的指導ではなかった
〇スカート丈、シャツだし、服装以外の衣服着用など、細かい指導項目が多い。時間の無駄。
★下着の色(例)
〇生徒が教師に下着を見せて白かどうかをチェックする
〇娘の中学のことになるが、肌着が白に決められていて、納得いかない。
〇下着や靴下は白。靴も白。マスクは自由なのに。
★通学靴関係(例)
〇学校指定の革靴を履かなければならない。外反母趾で靴が合わない子にも購入を強制していた。
★その他(例)
〇セーターの色が黒のみ可、濃紺は不可、靴と靴下は白のみ可
〇指定コート以外禁止。致し方ない場合「異装届」提出。
〇冬の防寒具でコートはいいのにベンチコートは禁止
頭髪服装以外の校則は、多岐にわたり、棒グラフで示すようなことはできませんでした。そのなかでも、カバンの指定や中身点検(13件)、スマホ(8件)などが比較的多かったものです。また、挨拶の強要など細かい行動をしばるものもいくつかありました。以下、細かくは分けずに、記述をピックアップして紹介します。
★全般的なもの
〇そもそも校則や決まりは誰が決めるのか。学校の設置者や教職員が勝手に決めるものなのか。そのプロセスがどう考えてもおかしい。
〇「生徒心得」が「指導の目安」(取締りの基準)で、生徒の権利保障の目標になっていない実態があった。基準に従わせる競争が生まれ(強要)、「調教飼育」(調教師)の支配が蔓延る。絶え間なく討論を重ねる努力が知恵と合意を作り上げます。
〇教師生徒含め、学校組織そのものが、人間は法の下に平等であるという意識が希薄であるように思える。教師と生徒、先輩と後輩などといった立場による立ち振る舞いばかり重視しているため、人権意識が育ちにくい。
★個別具体的なもの
〇登下校時に校舎に礼をする。チャイムが鳴ったら歩いていても止まる。
〇スマホをケースの中に入れないと授業が受けれない指導。スマホを強制的に取り上げる指導
〇カバンは指定。致し方ない場合、地味な色で無地。
〇アルバイト原則禁止
〇午前中で授業が終わるとき(家庭訪問や試験期間など)は、午後4時までは家庭学習しなければいけない。
〇部活動への全員登録
〇男女交際に対する「指導」
〇黙働清掃もくどうせいそう です。必要なことも喋らず黙々と掃除しなければならないという決まり。できなければ誰のクラスの児童?となります。
〇整髪料 化粧など社会では当然のものが禁止にされている。
〇始業の◯分前に来ていないと門や廊下で閉め出されて教室にいれてもらえない
〇他の教室、他のフロアへの侵入禁止
〇バイクの免許をとる バイクに乗るは停学処分
〇学校指定の肩掛けカバンが重い。教材を入れると10kg程度になり、かなり大きな負担を強いている。
〇持ち物検査で鞄の中身をてんけん
〇ピアスなども個人の自由でよい。
〇教科指導で「?を出さないと評価1」という指導が横行
〇持ってくる物を規定 鉛筆5本、赤鉛筆1本、...など。 またカバン(ランドセル)に付けるキーホルダー(ストラップ)は1個まで。
〇職員室に入る時に礼をして大きな声で名前と用件を言う
〇土日に運動部活動で登校するときも、制服で登校しなければならない。ジャージ登校は不可。
〇ブレザーを忘れて登校してきた生徒は、一旦帰宅させてブレザーを取りに帰らせる指導をしている。生徒は普通欠席の扱いとなっている。
疑問に思う校則についての記述ですが、校則にたいする教師としての葛藤や思いを綴った人も少なくありませんでした。次回以降と重なるものですが、ここでは5件の記述を掲載します。
〇「就職で不利になるから」「求人票を持ってきた企業の人が、本校生徒のアタマの色を見て生徒の質を判断する」「一人のツーブロックが三年生の就職の機会を減らす」という同調圧力が校則正当化の口実とされていた。
〇教師だって校則を無視していいなら仕事はずっと楽になります。アメリカのように学校を一歩離れたらたばこをくわえていても「ハーイ」ですむなら楽なもんです。しかし現実には深夜まで家庭訪問や生徒指導をしているのが現実です
〇校則は拘束か?と疑問と怒りに満ちた43年間の勤務だった。生活指導担当の学校では、生活指導部に疑問をぶつけ、改善に取り組めた。そうではない勤務校では、職員会議が闘う場だった。その姿が生徒たちに勇気を与え、生徒総会での発言にもって行くことができ、ずいぶん校則は変わったと思うが、職員が変わると元の木阿弥。何に疑問ってすべてですよ。職員室で生徒が教科内容に関して質問に来て、教えてドアを閉めて去った後に、教頭に言われたあのばかげた言葉、一生忘れない。「お前は教師か?今の生徒の靴下が白ではなかったことをどうして注意しないかったのだ。」「わたしはそんな事よりもあの子の疑問を大切にしたかったし、そもそも靴下の色に問題は感じていません。もし、あなたがそう思ってみていらしたのなら、ご自分であの子にお話になれば良ったのでは?」と。 すべてがその調子です。
〇以前は学校権力を背景に強圧的な指導をしてきました。しかし、近年国立大学への進学者も増え、部活でも全国大会レベルの活躍をするようになると、納得と理解の原則で苦痛なく、生徒への指導もできるようになりました。不本意入学者の減少との相関があるのは明確です。社会の偏差値輪切りの風潮がある限り、教師も生徒も不本意な対応が生じるのだと思います。
〇A市立B中(13年勤務)時代は、前髪の長さ?スカートの長さ?爪の色等々細々とありうんざり。C中時代(12年勤務)のラスト5年間は、発想豊かで子どもの良さ取り柄に繋がることなら「何でもあり学園」を提唱実践させてくれたD校長のお陰で、子ども達は勿論、父母、地域、学校関係者が一体となり 子どもの権利条約を具体化したものとなりました。[特定を避けるためイニシャルをA~Dに変えてあります]
(続)