校則には、校則を守らせるための生徒指導がつきものといわれています。中高生たちは検査について「監視されているようでいや」など批判的でした。教職員たちからみた校則指導のあり様を、勤務校と、回答者その人の二つの角度から尋ねました。まずは、勤務校の校則指導について紹介します。
〇厳しい生徒指導の例
体育館で並ばせ、一人ひとり頭髪の可否を教師が判定し、是正を強制する。
服装検査の日があり、全校生徒を体育館に整列させ、教員が服装や髪型のチェックを行う。この際、スカート棒なるものでスカート丈を測ったり、肌着を着用しているかも制服をめくって確認したりしていました。前髪が長すぎると職員室で切らせることもありました。パーマやピアスが見つかると、授業を受けさせず個別指導することも。
頭髪の違反、特に染髪は教室で授業を受けさせず黒染めするまで別室で指導する。 髪の長さは期日を決めて散髪してくるように指導する。
シャツの下の肌着や靴下が白色以外のときは、脱がせて着替えさせる(学校で白色を貸し出し)。
個別指導と称して生徒指導室で反省文を書かせたり、親を呼び出す。一番悪いのは内申をチラつかせて直さないと高校に行けなくなると脅す。
先生方集団で指導する。月に1度、学年の生徒全員をホール等にならべ、分担してチェックをした。体育系の先生が中心で、『足並みを揃えて下さい。』といわれるので、疑問に思っても意見を言えなかった。細かいところまで、チェックをし、後日、訂正したら、また、指導の先生のところに見せに行くことになっていた。
〇普通、ゆるい生徒指導の例
学期に1度の頭髪・服装検査と、個々の教員が気づいたら声をかける
口頭で注意をするのみ 他校では生徒指導担当教師が茶髪に対してスプレイで黒く染めさせた
茶髪は地毛の人は入学式に申請登録、学期の初めに一斉頭髪服装指導、染色した人は染め直させる
見かけた際に注意する、なぜダメなのかその理由を伝える。受験があるので、面接等を意識した髪型や服装と呼び掛けている。
「校則にあるから守れ」という指導はしていない。生徒と教師の合意でできた「生徒心得」という決まりがあるだけなので、細部は毎年変わっていきます。「外靴の色」などは、10年以上年も前に規制が無くなりました。「無秩序状態を引き起こすようなものでないこと」「学校を生徒にとってより過ごしやすい場所にするために」という前提で、生徒会と教師が話し合い、合意を形成していくことが大切です。その話し合いが成立するには、生徒会執行部が、生徒の意見を集約する力を持ち、生徒の代表であるという全校生徒の認識がなければなりません。校則や心得を生徒が納得して守っていけるものにするには、そんな生徒会執行部を作っていく指導がまず必要です。
注)厳しい、普通、ゆるいの回答から、典型的なものをピックアップした。
【コメント】
相対的に厳しい校則指導は、「体育館で並ばせ、一人ひとり頭髪の可否を教師が判定し、是正を強制する。」というのが典型的です。校門チェックもあります。また、スカートの長さの膝立ちチェックやスカート棒、制服をめくって肌着確認などセクシャルハラスメントが疑われるものもあります。
★直させるためのペナルティー
アンケートから浮かび上がったのは、「是正」させるために様々なペナルティーが子どもたちに課せられていることです。
回答でもっとも多かったのは、直すまで授業をうけさせない(いったん帰宅させ直して再登校、別室で反省させるなど)、遠足や卒業式などの行事に出席させないなど、教育からの排除でした。教育を受ける権利の侵害ではないかと指摘する教職員もいました。
何日までに直してくるととりきめる、反省文をかかせる、執拗な声かけや教員数人でとりかこむなどの圧迫、保護者の呼び出し、朝30分前に登校させる、直るまで何度でも理髪店に行かせる、学校で白い下着・靴下を貸しだし着替えさせる、累積カード制など様々な方法が書かれています。
さらに、体罰、髪を切る、髪への黒スプレーなど法に抵触しうるものもあります。
★校則指導の葛藤
アンケートには、校則指導に関して、次のような趣旨の思いも書かれていました。
――厳しい校則指導は、体育の教員、若い教員が主に行っており、「足並みを揃えてください」と言われ意見をいえない。問答無用で校則を守らせる指導ができない教師は「ダメ教師」とされる。
――生徒の人権という観点なく行われ疑問だが、私学の生徒募集という観点から、私学の教師はせざるを得ない苦しさをかかえている。(公立も同様のことがあるかもしれません 引用者)
――校則指導は一概ではない。現場に即して評価、是正すべき。大事なのは生徒とのコミュニケーション。十把一絡げに「都立高校の校則」と糾弾するようなやり方に強い反発を感じる。
教職員のなかでの厳しい校則指導への同調圧力の存在、生徒募集のためには頭髪や服装がきちんとしていたほうが有利という現実、同じ公立でも多様な実態があること、校則指導が時に生徒とのコミュニケーションツールになる教育の諸相――校則問題は、糾弾では解決しない。このことを教職員は訴えていると思います。
★生徒と話し合うことの大切さ
「普通」「ゆるい」を選んだ回答のなかにも、「厳しい」と同程度の厳しさの思われるものもありました。
同時に、「普通」「ゆるい」の多くの回答からは、校則について生徒と話し合うことを重視している教職員の姿が垣間見えました。「本人と保護者に丁寧に話をして理解をしていただく」「子どもの意識や生活に寄り添い粘り強い指導・援助」などです。ある教員は、無秩序としない、学校を生徒が過ごしやすい場にするという前提で生徒会と教員が話し合い合意を形成することが大事と書きました。また、ある退職教員は、「校則があると管理「教育」にならざるを得ない。両者が信頼し合い、ともに成長するには寄り添い合う時間を確保しその関係維持のなかで、はじめて≪教育≫が成り立つ」と書きました。
校則の見直しに、生徒と教職員との血の通った話し合いこそ大切ではないかと思います。
注 一つの回答に複数の要素があるものもあり、合計は全体を上回っている
回答から
授業を成り立たせるため(国公立高校)
その指導が学校の規律の維持につながっている側面があるから(国公立中学)
決められたルールは守るべきである(私立高校)
コミュニケーションの入り口になる(私立中高)
心の中ではどうでもいいと思っているが、守っている生徒の手前、守っていない生徒に声を掛けている(国公立高校)」
学年の足並みを揃えてください。甘くしないでくださいと常に言われていた。これでいいのかといつも葛藤があった(高校・退職)
「学年全体での共通理解があるから。「甘い」と思われたくない(国公立中学)
教育的に意味のある理由が見いだせないから。それでも、一斉に行われる服装や持ち物検査は拒否できないし、若い女性の教員には指導力がないと管理職から目を付けられたり、学年の教員から指摘を受けるので全くやらないという訳にも行かず苦しい立場でした(私立高校)
話せばわかる(国公立中学)
厳しく指導して学校に、来られなくなったら子供の、学ぶ権利を侵害してしまうから。(国公立高校)
【コメント】
8割近くが校則指導はあまり積極的におこなっていない(「どちらかというと仕方なく行っている」45.5%「あまり行っていない」23.6%「おこなっていない」8.9。さらに「その他」での非積極的な記述をふくめると9割近い)。頭髪や服装にかかわる校則指導はやりたくないという教職員の気持ちがよくあらわれた結果でした。「積極的に」おこなっていると回答した教職員は一割強にとどまっています。
校則指導を「積極的」から「行わない」までのそれぞれの教職員の理由も特徴的でした。
そのなかでもっとも注目されるのは、多数派をしめた「どちらかというと仕方なく」行っている教職員の気持ちです。他の設問への回答から類推しても、多くの人が「特に、頭髪や服装に関する校則を守らせることに、意味を見出せない」といった具合に頭髪や服装の校則に疑問をもってします。それでもやらざるをえないのはなぜか。アンケートは、その最大の動機が「他教員の目が気になるから」「職員会議で、話し合いますが、結局同じような結論になってしまい、決めた事は、やらざるをえない」など教職員組織の一員としての事情や気持ちにあることを示しています。
数は少なかったですが、「心の中ではどうでもいいと思っているが、守っている生徒の手前、守っていない生徒に声を掛けている」「ルールを緩めたり、見過ごすこと」を「批判する保護者が多い」といった、保護者や生徒の手前という事情もあげた教職員もいました。
校則指導を「積極的」におこなっている教職員のあげた理由は、授業や学内の規律の維持に必要、ルールだから、生徒の安全、教育上の必要性(「子どもとのコミュニケーションの入口」)などです。
組織の一員論から教育上の必要まで、校則指導をおこなう「理由」をていねいに考えることは、校則の見直しにとっても有益なことと思われます。
さいごに、長年の教師経験を書いた元教師の一節をかかげます。
「0年代に勤めたのは定時制高校だった。このとき、新採できた教員は、「とにかく立場が上の人のいうことはきいておく」「指導書にかいてあることだけそのとおりに授業すればよい」という人であり(その人は90年代、府立のいわゆる低学力高の出身で、出身校ではやはりずいぶん厳しい生活指導をうけてきた)、わたしは大いに衝撃をうけた。この、なにも考えない若者は、わたしが直接教えたわけではないが、私が教えた世代であり、「長いものには巻かれろ」を内面化させられてきたのだと感じたからだ。私は90年代後半から、からだもこころもはその個人だけのもの、という確信を抱くようになり、たとえば髪の色について教員があれこれ指図をすることは間違っていると考えていた。10年代に勤めていた定時制では、生徒の無力化を進める無意味な校則の強要があやまりである、ということを生徒自身にも理解させるよう努めてきたが、どれだけ理解してもらえたかはわからない。Q5にも関わるが、「校則のおかしさ」を考えさせたかった。(高校・退職)」