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2022年5月3日(火)

平和考

自民党「提言」は「安保法制第2弾」

集団的自衛権に「攻撃力」充足

 「ウクライナ(危機)で一気に進んだ。敵基地攻撃能力保有は、まさしく安保法制の第2弾。国民の危機意識を醸成し、防衛装備の拡大も9条改憲も進めるチャンスだ」。自民党国防部会関係者の一人はこう述べます。同党安全保障調査会は4月27日、「反撃能力」=敵基地攻撃能力の保有や軍事費の対国内総生産(GDP)比2%など、大軍拡を求める「提言」を岸田文雄首相に提出しました。

 提言では「反撃能力」の対象範囲を「相手国のミサイル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含む」としました。攻撃を受けそうになったら、相手国の中枢を先制攻撃するシナリオは、憲法9条に全面的に違反し、政府が建前としてきた「専守防衛」とも矛盾することは明らかです。

「矛」と「盾」

 自衛隊発足以来、「矛」と言われる攻撃能力は日米安保体制のもとで米軍に依存し、日本は「盾」すなわち「防御的」な活動に徹するという役割分担を形成してきました。これすら大きく切り替え、日本が独自の「攻撃力」を持つ―。安保法制で集団的自衛権の行使が可能になった自衛隊が、米国と肩を並べて攻撃参加する体制を充足するものです。

 長年、自衛隊の歴史について研究してきた植村秀樹流通経済大教授(安全保障論)は「自衛隊が敵基地攻撃能力を持つことは、侵略はもちろん、先制攻撃や他国での武力行使はしないという国民との合意を踏み越えるもの。2014年の集団的自衛権行使容認のときと同じで、これまでつくり上げてきた憲法解釈を勝手に政府が変える。これは憲法改正に等しい」と指摘します。そのうえで「今度は運用面で、自衛隊の装備と訓練と作戦を変える。これは安保法制の第2弾であり、完全に続きだ」と強調しました。

9条に違反

 『戦後政治にゆれた憲法九条―内閣法制局の自信と強さ―』の著者で共同通信元編集委員の中村明氏は「『長距離爆撃機の保有はできない』など従来の政府答弁を踏まえれば、高精度の長距離ミサイルの保有は憲法9条に違反する」と指摘。「しかも敵基地攻撃は、これまでの政府の立場でも極めて限定的な可能性にとどまる。『司令部』や『指揮統制機能等』まで対象を拡大するとなれば、(専守防衛の)例外の説明でもカバーできず、ほとんど全面的な攻撃を可能とする」と批判します。

写真

(写真)「核共有」や敵基地攻撃能力の保有ではなく、「憲法9条をいかした平和外交を」と訴える参加者ら=4月20日、衆院第2議員会館前

事実上の憲法改定

 植村教授は、「『反撃』だの『自衛』だのどんな名目をつけようと、相手国は名目で判断しない。日本が自分の国の中枢に届く攻撃力を持ち、撃ち込む気だと判断する。しかも北朝鮮や中国にはかつての日本が侵略した歴史がある。そういう国に日本がミサイルを撃ち込むことは計り知れない禍根を生む」と批判します。

逆に壊滅的被害

 中村氏は、ロシアが壊滅的破壊力を持つ核弾頭搭載の水中ドローンシステム(魚雷)を持つことなどを示し、「日本がロシアや中国、北朝鮮のミサイル発射基地を長距離ミサイルで攻撃しても、報復攻撃で日本は壊滅的な被害を受けるだろう」と指摘。「防衛」目的の攻撃が、逆に壊滅的被害をもたらすという「軍事的不合理」を痛烈に批判しました。

 自民党議員の一人も「敵基地攻撃は、大変な反撃を呼び込む。絶対にやめるべきだ。ウクライナ危機で右側の人たちが調子に乗っている。まして相手の国の中枢を狙うなんてことは専守防衛にも反する。憲法審査会で参考人を呼んだら、安保法制のときのように専門家から『憲法違反』と言われる」と厳しい表情を浮かべます。

PDI構想から

 急ピッチで進む「敵基地攻撃」能力保有の動きの背景に何があるのか。政府に近いある安全保障の専門家は指摘します。

 「昨年1月に、PDI(太平洋抑止構想)という予算が米議会を通った。(中国が設定する)第1列島線(フィリピンから日本の南西諸島にかけてのライン)上に残存性の高い精密打撃網をつくる。要するに中国東海岸の1500発ともいわれる中距離ミサイルとの数合わせだ。在日米軍基地だけでなく日本にもミサイルや航空戦力を配備し、それでも間に合わないのでオーストラリアの潜水艦などに巡航ミサイルを供給する」

 米国の対中戦略として、奄美、宮古、石垣のほか沖縄本島も含む南西諸島周辺に、急いで中国のミサイルに匹敵する「精密打撃網」をつくる―。その一環として、既に南西諸島では自衛隊のミサイル基地が整備されており、中国艦船を想定した対艦ミサイルや、最新鋭の極超音速兵器の配備が狙われています。実際、PDIの予算要求資料では「精密打撃網」は「増強された同盟国の地上配備兵器の参加」が前提とされています。

対米公約の履行

 元海上幕僚監部情報班長で現在、笹川平和財団上席研究員の小原凡司氏は4月27日の東京都内での講演で「第1列島線上に構築する精密打撃ネットワークによって、中国のA2・AD(接近拒否・領域否定)の能力を一時的に無力化する。そうして機動力を生かして分散配備された米国の兵力が中国に軍事力を行使する。これがPDIの根幹だ」と述べました。

 同氏は「PDIは敵基地攻撃能力の保有とリンクしている」「中国の戦力と見合うためには、ミサイル基地だけでなく、中枢への攻撃が重要になる」としました。日本の敵基地攻撃能力保有は、米中の東アジアでの全面衝突シナリオの一環です。

 敵基地攻撃能力の保有はすでに今年1月の日米2プラス2協議と日米首脳会談で対米公約となっています。議論の表に出てきていませんが、敵基地攻撃能力の保有の推進は、対米公約の履行なのです。

中枢部をたたく

 安倍晋三元首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーで集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更を進めた一人である北岡伸一元東大教授は、4月はじめの都内の講演で「安保法制をつくったから、いざというときにはアメリカと一緒にたたかうと言えるようになった」と強調。一方で「敵基地攻撃」というが「今の基地は移動している」ため基地をたたくのは現実には難しいとし、「対象を基地に限る必要はない…中枢部をたたく。あるいは首脳の住んでいるところをたたく」と提言。「(北朝鮮より)大きな危険は中国だ。中国が攻めてきたときには反撃する能力を持つべきだ」と語りました。

明白な先制攻撃

 安保法制下での敵基地攻撃能力の危険は、より明白な先制攻撃が可能になるということでもあります。

 敵基地攻撃は、そもそも「撃たれる前に撃つ」という性質上、攻撃「着手」前の違法な先制攻撃との区別が極めて困難です。さらに安保法制に基づく集団的自衛権の行使として敵基地攻撃がなされる場合は、すでに米国に対する攻撃がなされた段階での攻撃参加となり、日本に対する攻撃の有無にかかわりなく一方的に攻撃できるようになるため、他国領域内での明白な先制攻撃となります。

 これが憲法9条に違反することは明白です。東アジアの軍事的緊張を高め、南西諸島の破局のシナリオを含む大軍拡に厳しい批判が必要です。

 (中祖寅一、目黒健太)


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