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2022年3月19日(土)

主張

強制不妊被害救済

尊厳回復へ謝罪・補償を直ちに

 旧優生保護法による不妊手術を強制された東京都内の男性が国に賠償を求めた訴訟で11日、東京高裁は原告敗訴の一審判決(東京地裁)を変更し、賠償を命じました。旧法は「極めて非人道的で違憲」と断じました。2月22日の大阪高裁判決に続く原告の逆転勝訴です。旧法の違憲性を明確にし、国家賠償を認める控訴審判決を連続で勝ち取ったことは、原告・弁護団のたたかいによる重要な成果です。岸田文雄政権は上告せず、被害者の尊厳回復に向けて、謝罪し補償の責任を果たすべきです。

正義・公平に反する

 東京高裁判決は、旧優生保護法(1948~96年)について「立法目的が差別思想に基づくもので正当性を欠く」と指摘し、障害者らに不妊手術を強制したことは、憲法13条(個人の尊重)と同14条(法の下の平等)に反する人権侵害にあたるとしました。そして、厚生相(当時)は、公権力を行使し違憲・違法の手術を積極的に実施させたとして、国に賠償責任があることを認定しました。

 強制不妊手術をめぐる訴訟ではこれまで6地裁が賠償請求を退けました。被害を受けてから20年を過ぎると請求権が消滅する民法の「除斥期間」を厳しく適用したためです。20年以上前の不妊手術時を請求権の起算点にするなどし、救済を閉ざしてきたのです。

 2月の大阪高裁判決は、この壁に風穴を開けました。原告が他の同様の訴訟を知ってから「6カ月以内」に提訴したことなどを挙げ、請求権は消滅しないと判断し、初めて国家賠償を命じました。

 東京高裁判決は、救済の幅をさらに拡大する判断を示しました。除斥期間の起算点は加害行為を受けた手術の日としつつ、「著しく正義・公平の理念に反する特段の事情がある場合」は除斥期間の適用を制限すべきだとしたのです。

 特段の事情は(1)違憲の法律で被害者に強度の人権侵害をした(2)国が優生施策を積極的に推進し偏見・差別を社会に浸透させ、被害に気付けない構造をつくった(3)違憲の法律による被害の救済を、憲法より下位の民法規定で拒むことは慎重であるべきだ(4)被害者が認識できないうちに権利が消えるのは極めて酷だ(5)96年の法改正後も国は手術を正当化し、被害者が自分の受けた被害の情報を入手できる制度の整備を怠った―などです。

 そして、不法行為が明確に認識できるようになったのは、被害者に対する一時金支給法成立だったとし、同法施行日(2019年4月24日)から5年間は請求できると結論付けました。18年に提訴した原告の男性にとどまらず、多数の被害者に対して賠償の道を開く画期的な判決です。被害者の置かれた過酷な環境を直視し、広く救済を図ろうとする強い姿勢です。

支給法の改正は不可欠

 国は大阪高裁判決に従わずに上告し、被害者から厳しい批判が上がっています。東京高裁判決では、国に上告断念を求める声が相次いでいます。高齢化する被害者をいつまで苦しめるのか。国は反省し態度を改めるべきです。

 東京高裁判決は、原告は二重三重に肉体的精神的被害を受けたとして1500万円の賠償額を認定しました。320万円にとどまる一時金支給法ではあまりに不十分です。一刻も早く同法を改正することが国会に求められます。


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