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2021年12月31日(金)

私立学校法人改革 文科省会議の提言

教育・学問の視点なく

経営的観点で支配 日大の二の舞い?

 日本大学前理事長の巨額脱税容疑での逮捕を機に、学校法人のあり方が注目されています。おりしも文部科学省内で検討を進めてきた「学校法人ガバナンス改革会議」(改革会議)が3日に報告書を発表。ところが学外者だけで構成する評議員会に無制限の権限を与える内容に批判が高まり、同省は年内としていた私立学校法改定に向けた結論を先送りしました。私立学校の公共性と教育・研究の質を高める改革となるかが問われています。(佐久間亮)


図:現在の私立学校法と改革会議の報告書

 「日大の事件の根は、経営的観点を強調する理事長と常務理事が理事会のなかにさらに小さな会議体をつくり、そこがブラックボックスとなってさまざまな意思決定を行ってきたことだ。経営的観点で選ばれた外部の評議員に権限を集中すれば日大が陥った問題と同じことが起きる」。日大の理事の一人でもある紅野謙介文理学部長は、自戒を込め、改革会議の報告書をそう批判します。

 学校法人は私立学校の設置を目的とした公益法人です。日大は学校法人日本大学が設置した学校の一つで、同法人は幼稚園、小中学校、高校、短大も設置しています。

 教授会の権限縮小といった国の大学自治破壊の動きと歩調を合わせ、日大では、前理事長のもと総長制度の廃止、学長選挙や学部長選挙の形骸化がすすみ、評議員会や監事の統制も機能しなくなったといわれています。日大関係者は同時に、前理事長は「合法的」に権力を集中していったと口をそろえます。

 私学法は一見、学校法人の権限を理事会と評議員会、監事に分散しています。ところが同法をよく読むと、理事や評議員の選任方法は「寄付行為」と呼ばれる各法人の規則に委ねられ、寄付行為で定めれば理事、評議員、監事のすべてを理事長が選任できます。悪意を持った人物が理事長に就けば主要ポストを側近で独占することも可能です。

 それに対し改革会議は、現職教職員の評議員就任を禁止し、学外者だけで構成される評議員会を「最高監督・議決機関」とし、理事や監事の選任、法人の解散など強力な権限を与えると提言。学長は理事を兼ねるという私学法の条文も削除するとしました。

 これが現実のものとなれば、教員は評議員会から完全に排除され、学校法人の運営方針を作成し執行する理事会からも締め出される恐れがあります。教育や学問・研究の視点を持った評議員や理事が1人もいなくなり、経済界出身者やコンサルタントなど経営的観点を強く持った学外者が学校法人を独裁的に支配する道が開けます。

議論から私学関係者排除

理事会の権限強化の恐れ

写真

(写真)文科相に報告書を手渡した後、記者会見する「学校法人ガバナンス改革会議」のメンバー=13日、日本記者クラブ

 「報告書の中身のこともあるが、最大の問題は学校法人ガバナンス改革会議の構成員に私立学校の関係者が全く入っていないことだ」。文部科学省の関係者は、学校法人改革の結論が先送りされた内幕をそう明かします。私学関係者の怒りの強さが、閣議決定で年内と定められていたタイムリミットを覆したというのです。

 異例の先送りの裏には、見直し議論が政権主導で強引に軌道修正されたことがあります。

 そもそも今回の学校法人改革は、2019年の私立学校法改定に際し、不祥事防止の観点からさらなる見直しを求めた衆参両院の付帯決議から出発しています。その際、両決議は、学校法人の経営や教育・研究方針について「教職員と十分に情報を共有」すべきだとし、私立大学の自主性・公共性に「特段の配慮」を求めていました。

 決議を受け文科省が当初設置した有識者会議(座長・能見善久東大名誉教授)が21年3月にだした提言は、評議員会のメンバーには教職員や卒業生、保護者など「学校を取り巻く多様なステークホルダー(利害関係者)を反映する」としていました。この提言を受け文科省では慣例通り常設の「大学設置・学校法人審議会」で法改正の具体化に入ろうとしていました。

骨太方針から

 ところが6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)で事態は急変します。同方針が「手厚い優遇税制を受ける公益法人としての学校法人に相応(ふさわ)しいガバナンスの抜本改革」を再度検討し、年内に法改定に向けた結論を出すよう指示したからです。

 文科相直轄で新たに設置された改革会議(座長・増田宏一日本公認会計士協会相談役)の要綱は、会議の構成員に「現役の学校法人理事長等は入れない」と明記。メンバーの大半を経済界出身者や弁護士、公認会計士が占めました。私学関係者を意図的に排除し、経営的観点の強いメンバーだけで議論が進められた結果、現職教職員を入れない評議員会を学校法人の「最高監督・議決機関」にするという、文科省も想定しなかった「過激」(同省関係者)な報告書が出てくることになったのです。

 報告書には「世界ランキングの上位に位置付けられる大学が皆無」「統廃合も含めて大胆、かつ機動的に実行されることが求められる」など、不祥事防止という当初の目的とは関係のない文言も目立ちます。

 学外者による独裁を懸念する声とともに、理事会の権限強化につながるとの指摘もあります。

 報告書は、評議員会に無制限の権限を与えるにもかかわらず、肝心の評議員の選任方法は事実上、各学校法人の裁量に丸投げしています。評議員の選任への理事の関与は禁じているものの、都内のある私大の学長は「理事長の息のかかった人物を評議員にする手はいくらでもある。理事会に対する監督機能が高まるとは思えない」と言い切ります。

小中高を無視

 学校法人改革は幼稚園や小中学校、高校などにも重大な影響を与えるのに、改革会議の議論が大学以外の学校を無視して進められたことにも強い批判が上がっています。

 私学関係者からの猛烈な抗議を受け、文科省は年明け以降「関係者の合意形成を丁寧に図る場」を新たに発足させ、議論を仕切り直すとしています。ただし議論の行方は予断を許しません。いま求められているのは教職員など学内構成員によるチェック機能を強化する改革です。


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