しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2021年8月22日(日)

主張

「慰安婦」告発30年

歴史的な不正義を認めてこそ

 1991年8月14日に韓国の金学順(キム・ハクスン)さんが日本軍「慰安婦」だったと初めて名乗り出てから30年がたちました。日本が起こした侵略戦争のさなかに朝鮮、中国などで旧日本軍が関与して女性を強制的に集め、性奴隷にした非人道的行為の罪は消せません。当時の国際法に照らしても違法です。被害者が求める日本政府の誠実な謝罪と償いはいまだに実現していません。菅義偉政権が過去の政府の立場からも姿勢を後退させていることが今の最大の障害です。

「河野談話」否定許されぬ

 菅政権は4月27日、「従軍慰安婦」の用語が、旧日本軍が強制連行したとの「誤解を招き得る」ので「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切である」とする見解を閣議決定しました。日本維新の会議員の質問主意書(文書質問)に対する答弁書です。政府の公式見解である93年の河野洋平官房長官談話を事実上、否定するものです。

 「河野談話」は金さんら被害者の訴えを受け、政府による調査の上で発表されました。「従軍慰安婦」の存在と旧日本軍の「直接あるいは間接」の関与、本人たちの意思に反した強制性を認めました。「同じ過ちを決して繰り返さない」決意も表明しました。

 閣議決定は「河野談話」を「継承する」と言いますが、「従軍」の言葉を消し去ることは、軍による強制を認めた談話の空洞化にほかなりません。萩生田光一文部科学相は5月、学校教科書で「従軍慰安婦」の用語を使わないよう介入し始めました。歴史教育を通じてこの問題を長く記憶にとどめ、過ちを繰り返さないとした「河野談話」に真っ向から反します。

 軍「慰安婦」問題は、被害者を中心とするたたかいと、植民地支配を美化する立場から問題をなかったものにしようとする勢力の策動との間で曲折をへてきました。

 2015年12月には日韓両政府が解決に向けた合意に達し、日本政府は旧日本軍の関与を改めて認め、当時の安倍晋三首相は「心からおわびと反省の気持ち」を表明しました。しかし同氏はその後も「性奴隷といった事実はない」(16年1月)と主張し続けました。

 韓国大法院(最高裁)が18年に元「徴用工」への賠償を日本企業に命じる判決を出したことを機に日韓関係は戦後最悪といわれるほど悪化しています。

 菅政権の閣議決定は、政府が公然と歴史を偽造し、解決の道を閉ざすことにほかなりません。撤回して「河野談話」に立ち返り、加害の事実を認めて被害者への謝罪、補償の責任を果たすべきです。

植民地支配を自ら正せ

 金さんは1991年12月に他の被害者とともに謝罪と賠償を求めて東京地裁に訴えを起こし、日本軍人に拉致され、性的暴行を受けて性奴隷にされたおぞましい体験を陳述しました。日本政府を「河野談話」発表に動かしたのはこの勇気ある告発です。今日の世界で戦時性暴力を犯罪とする規範や、性暴力被害を告発する流れがつくられることにも貢献しました。

 菅政権の姿勢は植民地支配を過去にさかのぼって正す世界の流れからしても許されるものではありません。隣国である韓国と真の信頼、友好を築くために日本政府が自らの歴史的不正義と真剣に向き合わなければなりません。


pageup