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私と資本論

生活で直面する苦痛の源示す

政治学者・京都精華大学専任講師
白井聡さん

写真:白井聡

 大学生当時『資本論』を初めて読んだ。その頃、デパートの食堂でウエーターをしていた。混雑時は4時間くらい立ち止まる暇もない。逆に、暇なときはすることがなくて、暇疲れしてしまう。そういうときにはレジの陰で本を読んでいた。まさにそこで『資本論』を読んだ。ああいう環境で読むと理解が進む。「賃労働とは何か」を実感しながら読むからだ。

 「店長はムカつくやつだ」と思っていると、ある日店長が朝から「憂鬱だ」と言っている。デパートの担当者が面談に来るからだ。「売り上げが不十分だ」と絞りにくるのだ。こうして「店長よりもっとイヤなやつがその上にいるらしい」とわかってくる。なんであいつはあんなに威張りくさっているのか。それは大資本の威光をかさに着ているからだ。

 『資本論』からわかってきたことには、デパートの担当者と店長との関係、店長とアルバイターとの関係は、それぞれ大資本と小資本、資本家と労働者といった資本制に特有の社会的関係の反映だったのだ。

 では大資本とは何か。デパート資本は店子の中小零細企業に比べれば大きいが、日本経済全体で見れば、最大でも最強でもない。さらに経済は世界中でつながっており、日本では大資本であっても世界的に見ればより大きく強い資本はいくらでもある。私が働いていたそのデパートも昨年、百貨店不況のなかで閉店した。

 『資本論』は、一方ではグローバルな資本主義の発展傾向といった最も大きな話にかかわっていながら、他方で、自分の上司がなぜ横柄なのか、というような最も身近でミクロなことにもかかわっている。そして、それらがすべてつながっていることを見せてくれる。ここが『資本論』のすごさだ。

 いま私は『資本論入門』の出版準備をしている。『資本論』の偉大さがストレートに伝わる本を世に出したい。私たちが生活の中で直面する不条理や苦痛がどのようにして生み出されるのかを『資本論』は鮮明に示してくれる。それを伝えたい。東洋経済新報社から春頃に出る予定だ。

「しんぶん赤旗」2020年1月22日


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