2024年9月10日(火)
日曜版スクープ JCJ大賞
“自民が隠した闇 暴く”
パー券不記載・裏金報道
「しんぶん赤旗」日曜版による「自民党派閥の政治資金パーティー大量不記載」報道と、政治資金、裏金問題を巡る一連のキャンペーンが、日本ジャーナリスト会議のJCJ大賞を受賞しました。この特報は自民党を揺るがす大事件へとつながり、岸田文雄首相退陣への引き金になりました。(三浦誠)
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「総裁選には出馬いたしません」。8月14日午前11時半すぎ、岸田首相が記者会見で退陣表明をしました。会見は質疑応答をあわせて約23分。その間に、岸田首相は「政治とカネ」という言葉を6回も発しました。
「政治とカネ」で追い詰められ政権を投げ出した―そのことを象徴する会見でした。
どんな手口で
自民派閥の政治資金パーティーを巡る疑惑を特報したのは、日曜版2022年11月6日号でした。
自民党主要5派閥である岸田派(宏池政策研究会)、安倍派(清和政策研究会)、麻生派(志公会)、二階派(志帥会)、茂木派(平成研究会)がパーティー券の大口購入者名を政治資金収支報告書に記載していなかったというのです。
自民党元最高幹部の事務所関係者はいいます。「日曜版の報道は自民党が隠していることを表に出した」
どういう手口で不記載にしていたのか―。
例えば業界政治団体「全日電工連政治連盟」(東京都)は、18年に岸田派のパーティー券を2回に分け、計30万円分購入。安倍派からも複数回で計90万円分を買っていました。しかし岸田派、安倍派とも収支報告書に同連盟の名前を記載していませんでした。
同連盟の事務担当者は日曜版の取材班に、「同じ派閥に所属する複数の自民党議員からパーティー券の購入を頼まれ、それぞれ分けて口座にパーティー券代を振り込んだ」と証言しています。
政治資金規正法は、20万円超のパーティー券購入者の名前を収支報告書に記載するよう定めています。不記載には5年以下の禁錮または罰金100万円以下の罰則があります。
徹底した調査
ほかにも同じような記載をしている政治団体があるのでは―。そう考えた日曜版の取材班は、調査を他の業界政治団体にも広げていきます。
日曜版の調査は徹底していました。総務省によると政治団体の数は、総務省届け出分と都道府県選挙管理委員会届け出分を合わせて6万1188(22年現在)。業界団体の全国的な政治団体は、総務省分だけでも約120あります。
日曜版はいくつもの業界政治団体の収支報告書に書かれた支出を調べ、派閥側が記載した収入とつきあわせて、不記載をみつけていきました。地道で労力のいる作業です。
その結果、不記載は18~20年の3年間で、少なくとも59件、額面で計2422万円分にのぼることを日曜版22年11月6日号で明らかにしました。
その後も調査を続け、23年11月5日号では、18~21年の4年間で、主要5派閥の不記載が94件、計約4000万円になると報道しています。
主要5派閥すべてが過去数年にわたって同様の不記載を繰り返していることで、自民党内でまん延している組織的な手法であることが浮かび上がりました。
派閥側は日曜版が報道するたびに、あわてて収支報告書を訂正してきました。“罪を自白した”かたちでした。
特捜を動かす
日曜版の特報をうけ、神戸学院大学の上脇博之教授が、まず22年11月中に、安倍派会長だった細田博之衆院議長(当時、故人)らを規正法違反の疑いで東京地検に刑事告発します。
告発を受け東京地検特捜部が捜査しているらしいという情報が流れてきたのは23年秋ごろです。
長年検察を取材してきたジャーナリストは、「検察は当初、『共産党のネタだろう』と言って捜査に乗り気ではなかった」と振り返ります。
ではなぜ捜査が始まったのか。「不記載の規模と悪質さがあまりにも大きかったからだ。日曜版報道の貢献は大きい」
裏金をつくっていた議員は自民党の「調査」でも82人。ジャーナリスト会議は日曜版報道をJCJ大賞に選んだ理由として、「スケールの点では、1975年の『田中金脈』報道や、88年の『リクルート事件』報道を超える」と評価しています。
大手紙は無視
日曜版が不記載をスクープした後、大手メディアはどうしていたのか―。
当時、大手メディアは、日曜版のスクープも上脇氏の告発もほとんど報じませんでした。
大手メディアが報道したのは、東京地検が捜査を始め、自民派閥がパーティーを利用して裏金をつくっていたことが明らかになってきてからです。日曜版の報道から実に1年以上がたっていました。
最近ではメディアから“逆流”も出ています。「読売」は社説(8月29日付)で自民党総裁選にふれて「『裏金』作りをしていた議員を公認するかどうかなど、自民党はいつまで内向きの議論を続けるつもりなのか」と主張。「党執行部は4月、多額の裏金を作っていた議員を処分したはずだ。この話題を蒸し返すだけでは前進はしない」と続けました。
3代の首相追い詰めた「赤旗」
2020年代に入って「しんぶん赤旗」は、安倍晋三首相の「桜を見る会」私物化スクープでJCJ大賞(20年)、菅義偉首相の日本学術会議会員候補任命拒否のスクープでJCJ賞(21年)を受賞。今回の派閥パーティー資金の不記載報道を含めると、安倍、菅、岸田の3代首相にわたって、「赤旗」のスクープが退陣のきっかけとなっています。