2024年8月13日(火)
主張
過労死防止法10年
国の責任で法的規制の強化を
過労死防止法の成立から今年で10年です。同法は、過労死が社会問題化するなか、遺族や支援者が55万人を超える署名を集めるという運動の力で議員立法として全会一致でつくられました。過労死に関する調査研究で実態を明らかにし防止に生かすことを理念に掲げ、対策を推進する「国の責務」を明記しています。
しかし、過労死の件数は近年増加傾向にあることが、2日に閣議決定された過労死等防止対策大綱でも明らかにされました。
過労死をなくす国と企業の責任が問われています。
■数値目標は先送り
大綱は、同法にもとづいて防止対策をすすめるために現状を報告し課題を示すもので、過労死等防止対策推進協議会の審議を経て3年ごとに見直されます。
改定大綱は、▽4月から適用された建設業、トラック運送業、医師の時間外労働の上限規制の徹底▽過労死多発企業への指導強化▽フリーランスなどの就労環境の整備▽仕事を終えてから次に働き始めるまでに一定の休息時間を確保する勤務間インターバル制度の普及などを課題にあげます。
いくつかの数値目標を掲げますが、勤務間インターバル制度の導入率・有給休暇取得率の向上、週労働時間60時間以上の労働者の割合低減は改定前の目標達成を3年後に先送りしています。
国際労働機関(ILO)「労働の世界における暴力とハラスメントを撤廃する条約」(第190号)の批准も「努力を払う」という記述にとどまっています。
■当事者の強い求め
大綱は、労使代表だけでなく過労死家族の会代表者などの当事者も参加して策定されます。しかし、過労死ゼロの実現に向けて効果を発揮することができていないのが現状です。根本的な原因は国のとりくみの弱さにあります。
ただちに実施すべきなのは、過労死認定の基準をより緩和することで労災申請を容易にし、犠牲者を幅広く救済することです。
抜本的には法的規制の強化が必要です。労働基準法は残業の限度時間を月45時間、年360時間と定めています。しかし、「臨時的な特別の事情がある」場合には年720時間(休日労働を含めると960時間)、月100時間未満、2~6カ月の月平均で80時間以内の残業を認めています。
過労死ラインを容認するこのような特例は廃止しなければなりません。国連「ビジネスと人権」作業部会の「訪日報告書」は、労基法がこの特例を認めていることに重大な懸念を表明しています。
連続11時間の休息を確保する勤務間インターバルは1日の労働時間の上限規制につながる重要な制度です。欧州諸国だけでなく世界各国に普及しており法制化が求められます。嫌がらせやパワハラの相談件数が増加している現状を踏まえるなら、ILO第190号を批准しハラスメントを禁止する法制定も急務です。
どちらも対策推進協議会の専門家委員と当事者代表委員が共通して強く求めているものです。
「過労死は根絶する」という強い決意のもと、当事者の意見をしっかりと踏まえた責任ある対策が国に求められています。