2024年7月26日(金)
きょうの潮流
つらかった、悲しかった、苦しかった。めちゃくちゃにされた人生を返してほしい。それが無理なら、せめて間違った手術だったことを認めてほしい―▼14歳のとき、不妊手術を強いられた北三郎さん。結婚後も秘密を抱えながら、人としての価値を否定された扱いにさいなまれてきました。「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、障害者などに不妊手術を強制してきた旧優生保護法のもとで▼障害のある人に子どもをつくらせてはいけない、劣った命はいらない、という優生思想を認めてきた国。障害者から人権を奪い、差別を助長する考え方を克服できていない社会。そのなかで起きたのが8年前のやまゆり園事件でした▼「私が殺したのは人ではありません。“心失者(しんしつしゃ)”です」。相模原市の障害者施設を襲い、19人を殺害し26人に重軽傷を負わせた元施設職員の植松聖死刑囚は、障害者は「不幸をばらまく存在」という偏見にこり固まっていました▼今月初め、最高裁は旧優生保護法を違憲として国に賠償を求める判決を出し、岸田首相は強制不妊の被害者に直接謝罪しました。原告らは差別を許さない社会をつくる出発点にしなければと▼社会保障法が専門の井上英夫・金沢大名誉教授は、優生思想を克服するうえで大事なことは、民主主義と自己決定だと本紙に。北さんも最高裁の法廷で「自分のことを自分で決められる社会につながることを、心から願っています」と訴えました。一人ひとりの尊厳が守られる世の中をめざして。