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2024年7月11日(木)

志位和夫著『Q&A 共産主義と自由―「資本論」を導きに』はじめに〈転載〉

 日本共産党の志位和夫議長が「学生オンラインゼミ・第3弾」(4月27日、民青同盟主催)で行った講演を収録した新著『Q&A 共産主義と自由―「資本論」を導きに』(新日本出版社)の「はじめに」を紹介します。


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(写真)『Q&A 共産主義と自由』

 『Q&A共産主義と自由―「資本論」を導きに』という書名を見て、どのようにお感じになるでしょうか。「共産主義」と「自由」とは、まったく相いれない対立物のように思われている方も少なくないかもしれません。

 貧富の格差の途方もない拡大、深刻さをます気候危機など、世界の資本主義の矛盾はたいへんに深いものがあります。そうした現実を見て、「資本主義というシステムをこの先も続けていいのか」という真剣な問いかけが起こっています。一方、社会主義・共産主義はというと、「自由がないのでは」という声も少なくないでしょう。

 しかし、科学的社会主義の礎(いしずえ)をきずいたカール・マルクス(1818~83)とフリードリヒ・エンゲルス(1820~95)の足跡をたどるならば、彼らが、社会主義・共産主義社会の最大の特徴として、「人間の自由」という言葉を幾度となく繰り返し、それを可能にする社会のあり方を一貫して追求しつづけ、その実現のためにたたかいつづけたことが明らかになってきます。私たち日本共産党がめざす未来社会―社会主義・共産主義社会は、マルクス、エンゲルスの本来の立場を、現代の目で発掘し、まっすぐに引き継ぎ、発展させたものにほかなりません。

 「人間の自由」と「社会主義・共産主義」は、文字通り、あらゆる意味において、一体不可分のものであり、それは21世紀の現代においていよいよ豊かな生彩を放っている―これが私が本書で明らかにしたい中心的な内容です。

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 本書には若いみなさんを対象に行った一つの講演が収録されています。「人間の自由」と「社会主義・共産主義」というテーマを、いかに多くの方々に理解していただける論理と言葉で語るか。これは私にとって、この数年来の大きな課題でしたが、この難しい課題に挑戦する第一歩となる機会を与えてくれたのが、日本民主青年同盟(以下、民青同盟または民青)のみなさんでした。「このテーマを初心者でもわかるように話してほしい」―民青同盟のみなさんの提案をうけて話し合い、誰にでもとっつきやすく、わかりやすいものにしよう、「Q&A」方式でこの問題を語ってみよう、「Q&A」は基本的には「一話完結」にして、関心のある設問のどこからでも読んでもらえるものにしようということになりました。

 そうした企画が、2024年4月27日、「学生オンラインゼミ・第3弾」(民青同盟主催)という形で実現し、私は、「『人間の自由』と社会主義・共産主義―『資本論』を導きに」と題して、講演を行いました。

 「学生オンラインゼミ」は、民青同盟のみなさんが、社会主義・共産主義についての学生からの疑問や、同盟内での学びのなかで出された疑問を35の質問にまとめ、民青同盟の中山歩美副委員長が一つひとつを問いかけ、それに答えるという形で進みました。2回の休憩をはさみ、当日、追加で寄せられた質疑も含めて、3時間余りの講演となりましたが、会場でも、オンラインでご覧いただいた全国でも、集中して熱心に聴いてくれたことは、本当にうれしいことでした。

 私が、このとりくみのなかで強く感じたのは、いま日本の青年のなかで、社会主義・共産主義に対する新たな関心の広がりが起こっているということでした。ある大学からは、民青のみなさんが学内につくった「学生オンラインゼミ」の立看板を見て、10人を超える学生が、会場となった日本共産党本部に来て、講演を熱心に聞いてくれました。講演の途中の休み時間には私に真剣な質問をぶつけ、感想文には「共産主義のイメージが百八十度変わった」などの感想がびっしりと綴(つづ)られていました。私は、多くの青年と私たち日本共産党の理想が響きあう新たな鉱脈を発見した思いでした。

 私は、講演を、「人間の自由」をキーワードにすえて、私たちがめざす社会主義・共産主義の本当の姿を、このキーワードを軸にいろいろな角度から明らかにしてみよう―このことに一番の力点を置いて準備しました。

 そのさい、その最大の導きとなるのは、カール・マルクスの畢生(ひっせい)の大著『資本論』です。この書は、資本主義の徹底的な批判的解明の書であるとともに、それに代わる未来社会―社会主義・共産主義社会の姿を、マルクスが最も豊かに語った書ともなっています。講演は、その全体でマルクスを紹介しながら進めましたが、マルクスの『資本論』や『資本論草稿』など原典そのものは、初めての方には難しい面もあり、私なりに平易な言葉に置き換えて紹介するということを行いました。

 講演を本書に収録するさいに、その全体にわたって、加筆・修正を行ったことを、ご了解していただければと思います。

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 講演では、「序論」として、「資本主義はほんとうに『人間の自由』を保障しているか?」という問いかけに答えています。「社会主義・共産主義と自由」の問題を考える前に、まず私たちが生きている資本主義社会は、ほんとうの意味での「人間の自由」を保障しているだろうかという問いかけです。

 たしかに資本主義の時代が、先行する奴隷制や封建制に比べて、自由、平等、民主主義、人間の個性などが画期的に発展した一時代となったことは間違いありません。同時に、ごく一握りの富裕層とグローバル大企業が、50億人の人々の貧困の拡大のうえに繁栄を謳歌(おうか)する社会が、果たして「自由」な社会と言えるでしょうか。資本主義は、気候危機という形で、人類の生存の自由という、「自由」の根源的土台を危険にさらしているではないか。講演は、この問いかけへの応答から始め、「社会主義の復権」とも呼ぶべき動きが世界で起こっていることを紹介しています。

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 そのうえで、講演では、2024年1月に行われた日本共産党第29回大会の決議を土台にして、三つの角度から、「人間の自由」と社会主義・共産主義についての私たちの展望をのべています。

 第一の角度は、「利潤第一主義」からの自由です。講演では、そもそも「利潤第一主義」とはどういうことか、それがもたらす害悪―貧困と格差の拡大、「あとの祭り」の経済と、それを引き起こすメカニズムを明らかにしたうえで、それらの害悪をとりのぞく道が「生産手段の社会化」にあることをのべています。

 そのさい講演では、「生産手段の社会化」と「人間の自由」との関係に焦点をあてて、両者が深く結びついていることを明らかにすることに一つの力点を置きました。

 ―「生産手段の社会化」によって、人間は「利潤第一主義」から自由になり、「自由な生産者が主役」の社会の実現に道が開かれること。

 ―「利潤第一主義」から自由になることで、人間は貧困と格差から自由になり、「あとの祭り」の経済から自由になり、「社会的理性」が「祭り」(繰り返される恐慌や気候危機など無政府的生産のもたらす攪乱〈かくらん〉)が終わってから働く社会に代わって、はじめから働く社会になること。

 ―人類史の圧倒的期間は、生産者が生産手段を共有した自由で平等な共同社会であり、社会主義・共産主義社会は、生産者と生産手段の結びつきという当たり前の姿を、高い次元で復活させるという人類史的意義を持つものであること。

 ―マルクスが、最晩年の1880年に作成した「フランス労働党の綱領前文」では、「人間の自由」をキーワードにして、「生産手段の社会化」をきわめて簡潔な論理で導きだしていること、などです。

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 第二の角度は、人間の自由で全面的な発展です。

 マルクス、エンゲルスが1848年に執筆した『共産党宣言』は、社会主義・共産主義社会を「各人の自由な発展が、万人の自由な発展のための条件であるような一つの結合社会」と特徴づけています。どうしたらすべての人間に「自由で全面的な発展」が保障されるような社会をつくることができるだろうか。マルクス、エンゲルスはこの主題を生涯にわたって探究し続けました。

 私は、講演を準備する過程で、『資本論』(1867~94年)と『資本論草稿集』(1857~63年)を読み返してみて、マルクスの探究の足跡をたどる努力をしてみました。そうしますと、『資本論草稿集』では、「自由に処分できる時間」―人間があらゆる外的な義務から解放されてまったく自由に使える時間―の重要性が繰り返し強調され、「自由に処分できる時間」こそが、人間と社会にとっての「真の富」であり、「人間の自由な発展の場を与える」ものだというきわめて印象深い主張がされています。

 資本主義的な搾取によって奪われているものは何だろうか。マルクスはこの問題について考察するなかで、搾取によって奪われているのは単に労働の成果―「モノ」や「カネ」だけではない、労働時間の全体が資本家のもとに置かれることで、本来、人々が持つことができる「自由に処分できる時間」―「自由な時間」が、奪われ、横領されているということを明らかにしていきます。奪われている「自由な時間」を取り戻し、拡大することによって、「人間の自由で全面的な発展」を可能にする、自由な社会をつくろう―こうしたメッセージが『資本論草稿集』から聞こえてきます。

 『資本論草稿集』でのマルクスのこうした探究は、『資本論』第3部第7篇第48章「三位一体的定式」のなかに書き込まれた社会主義・共産主義論―人間がまったく自由に使える時間、自分の力をのびのびと自由に伸ばすことそのものが目的となる時間―「真の自由の国」を拡大することにこそ「人間の自由で全面的な発展」の保障がある、「労働時間の短縮が根本条件である」という未来社会論に結実していきます。

 日本の現実を見るとき、過労死は依然として深刻であり、「自由に処分できる時間」を十分に持ちたいという願いは切実です。マルクスの解明は、そうした思いを持つ多くの青年・国民の心に響くものとなり、労働時間短縮を求めるたたかいへの大きな励ましとなるのではないでしょうか。

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 第三の角度は、発達した資本主義の国から社会主義・共産主義に進む場合には、「人間の自由」という点でも、はかりしれない豊かな可能性が存在しているということです。

 私たちは、2020年の日本共産党第28回大会で一部改定した綱領で、発達した資本主義がつくりだし、未来社会に継承・発展させられる「五つの要素」として、(1)高度な生産力、(2)経済を社会的に規制・管理する仕組み、(3)国民の生活と権利を守るルール、(4)自由と民主主義の諸制度と国民のたたかいの歴史的経験、(5)人間の豊かな個性をあげました。そして、「発達した資本主義国での社会変革は、社会主義・共産主義への大道である」と書き込みました。

 講演では、「五つの要素」のそれぞれについて、未来社会において「継承」させられるだけでなく、「発展」させられるということに新しい力点を置いて論じました。

 たとえば「高度な生産力」を継承・発展させるとはどういうことか。講演では、高度な生産力そのものは未来社会をつくるうえでの不可欠な物質的な土台になることを強調したうえで、「未来社会―社会主義・共産主義社会は、資本主義のもとでつくられた高度な生産力を、ただ引き継ぐのではなく―『利潤第一主義』に突き動かされて『生産のための生産』に突き進んだ資本主義社会のような、生産力の無限の量的発展をめざすものでなく―、新しい質で発展させるものとなるだろう」とのべ、その内容として、(1)「自由な時間」をもつ人間によって担われる、(2)労働者の生活向上と調和した質をもつ、(3)環境保全と両立する質をもつ―などの諸点を強調しました。

 「五つの要素」について、それぞれが未来社会において「発展」させられるという角度に力点を置いて論じることで、その多くの場合において、その具体的な内容が、万人が十分な「自由に処分できる時間」をもち、「自由で全面的な発展」が保障されるという未来社会の本質的な特徴と深く関連していることが見えてきたように思います。

 講演では、「旧ソ連、中国のような社会にならない保障は?」という問いに対して、指導勢力の誤りとともに、両者に共通する根本の問題として「革命の出発点の遅れ」という問題があったこと、日本の社会主義・共産主義の未来が自由のない社会には決してならないという最大の保障は、発達した資本主義を土台にして社会変革を進めるという事実のなかにあることを強調しました。旧ソ連の歴史的失敗は、マルクス、エンゲルスの未来社会論の輝きを損なわせるものでは決してありません。私たちがとりくんでいる発達した資本主義国での社会変革の事業のなかでこそ、それは真の輝きを放つだろうというのが、私たちの確信です。

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 マルクス、エンゲルスが終生にわたって求め続け、私たち日本共産党が綱領で掲げている社会主義・共産主義が、「人間の抑圧」「自由の圧殺」などというものとはまったく正反対のものであり、「人間の自由」があらゆる意味で豊かに開花する社会だという展望を伝えたい。人類は、資本主義という矛盾と苦しみに満ちた社会を乗り越えて、その先の社会に進む力をもっているという希望を伝えたい。これが本書に託した私の強い願いです。

 本書が、人類の前途、日本の進路を真剣に考える多くの方々に読まれ、未来への希望を見いだすうえで何らかの参考になれば、私にとって大きな幸せです。

 最後に、私に、こうしたテーマで語る素晴らしい機会を提案し、“共同作業”にとりくんでくれた民青同盟のみなさんに心からの感謝の気持ちをのべるとともに、この日本の現在と未来にとってかけがえのない青年組織が、さらに大きく発展することを願ってやみません。

2024年5月23日 志位和夫


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