しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2024年5月31日(金)

主張

国立劇場建て替え

計画見直し 国が財源に責任を

 日本の伝統芸能の殿堂ともいうべき国立劇場が昨年10月末に閉場してから半年余がたちました。2029年再開をめざして建て替える計画でしたが、2度の入札が不調に終わったまま、再開の見通しがまったく立っていません。空白期間の長期化が必至という異例の事態に、関係者から強い危惧の声が上がっています。

■文化の継承に危惧

 国立劇場は歌舞伎や文楽、邦楽、舞踊などさまざまな伝統芸能の公演を行ってきました。また、1966年の開場当初から、歌舞伎などで全幕上演する「通し狂言」や、埋もれた作品をよみがえらせる「復活狂言」を実施してきました。これらは民間では難しく国立劇場ならではの役割でした。

 さらに、実演家やスタッフなどの後継者養成、調査や資料収集機能も担ってきました。国立劇場の空白期間が長引くことは、伝統芸能、伝統文化の存続に大きな危機をもたらします。ナショナルシアターが何年も閉じたままというのは、世界的に見ても異常です。

 今年2月、伝統芸能の実演家ら11氏が日本記者クラブで会見しました。文楽人形遣いの吉田玉男さんは「毎回違うところで公演を打つのは本当に大変です。お客さまも足が遠のく」と窮状を訴えました。日本舞踊の井上八千代さんは「空白期間が大きい恥ずかしさを知ってほしい。文化施策が後に回ってよいのか」と厳しく指摘しています。

 入札不調の原因は建設資材や人件費の高騰だとされます。同時に、その大本には、劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)が2020年、当初の大規模改修案を変更し、PFI方式(民間資金活用による社会資本整備)による新劇場の整備計画を打ちだしていたことがあります。

■民間資金頼み破綻

 それは劇場を高層ビル化して、ホテルや商業施設を併設し「文化観光拠点」にする計画でした。第2次安倍政権以来の、「稼ぐ文化」の名で国立文化施設に収益性の追求を押しつける路線の具体化です。国立劇場を改修維持する国の責任を放棄し、芸術文化団体の支援のために芸文振に国が拠出していた基金500億円を国庫に返納して、それを建て替え資金に充て、不足分は民間資金に頼る方法を採ったのです。しかし、収益見通しの不透明さもあり入札は不調に終わりました。国の財源確保の責任を回避し、PFI方式による整備に切り替えた路線の破綻にほかなりません。

 芸文振は3月、伝統芸能や演劇の関係者も参加する「国立劇場再整備に関する有識者検討会」を発足させました。3回の検討会の議論をふまえ、15日に公表された「中間まとめ」は、「早期再開場を図ること」「国として必要な財源確保に責任を持つこと」などを強く求めています。

 日本芸能実演家団体協議会(芸団協)も「国は、国立劇場を一日も早く整備すること」「国立劇場群を代替劇場として確保し、芸術団体の活用拡大」などを求める要望書を出しました。

 政府・文化庁はこれらの意見に真摯(しんし)に耳を傾け、国が財源確保に責任を持って整備することを明確にし、計画を抜本的に見直して国立劇場の早期再開を図るべきです。


pageup