2024年5月10日(金)
社会リポート
手遅れ死 深刻
困窮・無保険で受診控え…
経済的理由で、受診を控えた末に手遅れ状態となり死亡するケースが相次いでいます。2023年だけで、少なくとも22都道府県で48の事例がありました(全日本民主医療機関連合会調べ)。体調不良でも、国民健康保険料や医療費の窓口負担が高すぎて、受診を我慢し、死に至るという最悪の事態が起きています。(田中真聖)
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北海道の40代男性Aさんは弁当チェーン店で働いていました。約5年勤務しましたが、人間関係の不和を理由に退職。約3年無職の状態が続きました。経済的に厳しくなり、70代の父親が住むマンションで同居。父親は年金暮らしで月約20万円の収入がありました。Aさんは貯金がほぼなく、父親から食費など援助を受けていました。
同居後、1年余り引きこもっていたAさんは、体力や食欲の低下が顕著に。体調に異変が起きたのは昨年4月のことでした。3カ月前から息切れなどの症状がありましたが、勤医協中央病院(札幌市)に搬送されたときには呼吸困難に陥り、検査の結果、結核と診断されました。
退職後、国保に加入していなかったAさん。同病院に運ばれた時は無保険状態でした。国保に加入しなければならなかったものの、父親は精神疾患があり、行政機関との交渉は難航。同病院のソーシャルワーカー・行沢剛さんがAさんの委任を受けて国保加入の手続きを行い、一部未納金を納めました。国保に加入できたものの、搬送から4日後にAさんは亡くなりました。
行沢さんは、「体調が悪化していても、お金がないために受診を控えてしまう。病院にたどり着いたとしても、最短だと2、3日で亡くなる事例もある」と指摘します。
Aさんの保険証交付の手続きでは役所との交渉に2~3時間もかかったといいます。「人の生死という一刻を争うような状況です。それでも役所は『保険料を納めなかった本人が悪い』の一点張りでした。自己責任の論理ですよね」
路上生活20年
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昨年3月、救急車で勤医協中央病院に搬送された身元不明の男性Bさんは肺がんでした。CT(コンピューター断層撮影装置)の検査で、切除不可能なほど重篤な状態であることが明らかに。入院からわずか2日後、死亡しました。
Bさんは、札幌市内の大通公園や、繁華街・すすきの周辺で20年ほど路上生活をしていました。搬送時は寝たまま、まったく動けずに言葉を発することも困難だったといいます。
担当した別のソーシャルワーカーは、同病院では「身元がまったく分からない方ははじめて。どこかで受診できる機会があれば早期発見につながったかもしれない」と振り返ります。
行沢さんは北海道民医連の同僚らとともに、2カ月に1回、ホームレス状態の人(路上生活者)を支援する民間団体と共同で炊き出しなどの支援を実施。そこで、経済的困難から医療を受けられない人が安心して受診できるよう、医療費負担を軽減する「無料低額診療制度」を勤医協中央病院が実施していることを周知しています。
「行政は人々がホームレス状態にならないような支援や政策をつくってほしいと思います」
高すぎる国保
全日本民医連の岸本啓介事務局長は、今回の調査について、非正規雇用など経済的に不安定な人たちや低年金の高齢者の多くが、「高い保険料を納めることを困難だと感じ、そこに物価高が追い打ちをかけている」と指摘。「高すぎる国保料を払える額にし、医療費の窓口負担を3割から引き下げて、誰もが医療にアクセスできるようにしてほしい」と話しました。