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2024年5月9日(木)

欧州 大規模農民デモ さまざまな要因重なる

「負担これ以上 耐えられない」

最大の農民団体代表 パトリック・パガーニさんに聞く

 欧州では多くの農家が生活苦に陥り、年明けから各国で大規模抗議が起こりました。欧州最大の農業生産者団体「Copa―Cogeca」のパトリック・パガーニ代表に現状と農家が抱える課題を聞きました。(ブリュッセル=吉本博美 写真も)


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(写真)Copa―Cogecaのパガーニ代表

 欧州の農家は大変な状況に追い込まれています。ウクライナ戦争を機に光熱費や肥料・飼料が高騰し、生産コストが上がっているのに十分な所得を得られていません。

 本当は誰も抗議行動などしたくありません。しかし欧州全域で広がったのは、さまざまな要因が重なって「これ以上の負担に耐えられない」という苦しみの裏返しでした。

 最初は各国政府に向けた抗議から始まりました。ドイツでは農業用ディーゼル燃料への税制優遇が打ち切られ、ポーランドではウクライナの安い小麦粉が大量に輸入され地元農家の売り上げが減ったことへの怒りでした。南欧では気候変動で深刻な不作となり、政府に補償を求めていました。

 これに加え農民の多大な負担となっていたのが、欧州連合(EU)の「グリーンディール」に基づく農業政策と、共通農業政策で直接所得補償を受けるための手続きです。

 環境対策として2030年までに化学農薬使用の50%削減を掲げていましたが、あと6年で減らすのは難しいと現場から声が上がっていました。輪作(地力低下を防止するために同一耕作地での異なる作物の交代栽培)の規定も細かく決められていました。

 EUは農業の脱炭素化でも、デジタル技術の活用を目指していますが、欧州の耕作地の40%はインターネットがつながりません。必要な環境づくりや機材の導入についての奨励金制度も不十分です。

 環境に優しい農業を目指すEUの方針に反対する農家は誰もいません。しかし実現するための現場の苦労、費用負担が考慮されていなかったのが問題でした。

労働に応じた所得補償必要

 セーフティーネットであるEUから農家が受け取る直接所得補償の手続きも煩雑になりました。農家の負担を増やすだけで、かつ補償を得られたとしても現在のインフレには追いついていない状況です。

 農家の所得を確保する上で大切な要素は、公正なサプライチェーンです。農家が出荷し、消費者の手元に届くまでの過程でもうけを得ようとする動きがあります。

 農家がいるからこそ私たちは食べて生きていけるのに、彼らが破産手続きをするまで追い込まれている。労働に応じた所得が補償されることは絶対に必要です。

 EUの審議や政策決定までは通常数年単位に及びますが、今回の農家の大規模抗議を受けて、EUがこの数カ月のうちに対応したのはとても早かったと思います。

 改善すべき点はまだありますが手応えを感じました。農業に関わる全ての利害関係者の声をしっかりと聞くようにこれからも求めていきたいと思います。

 EU共通農業政策 食料の安定供給、農業者の所得補償、環境保全、農村振興を目的にした欧州連合(EU)の総合的な農業政策。一般勤労者に比べて所得の低い農業者への直接支払いによる所得補償や、農産物の市場価格が低下した場合に買い支える価格保障を定めています。23年1月から、所得補償受け取りにあたり、より気候や環境、公衆衛生、動物福祉への配慮が求められる改定が施行されました。


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