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2024年4月12日(金)

日米首脳会談

対中覇権争い本格動員

 10日(日本時間11日未明)の日米首脳会談では、膨大な軍事協力が盛り込まれ、日米軍事同盟の歴史的な大変質が打ち出されました。中国との覇権争いに勝利するため、「グローバルパートナー」と称して日本を主力に位置づけ、本格的に動員する狙いです。

指揮統制

シームレスな統合 可能に

 最重要項目に位置づけられたのが、米軍・自衛隊の司令部機能の強化です。

 会談後に発表された共同声明は「作戦及び能力のシームレス(切れ目のない)な統合を可能にし、平時及び有事における自衛隊と米軍との間の相互運用性及び計画策定の強化を可能にするため」として、「それぞれの指揮統制枠組みを向上させる」としています。

 具体的には5月末の日米安保協議委員会(2プラス2)で決定されます。日本政府関係者は「(現段階で)詳細は差し控える」としていますが、自衛隊の部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」の発足(2025年3月)に合わせ、ハワイのインド太平洋軍司令部や在日米軍司令部の機能強化が検討されているとみられます。

 日米は06年、既に米軍・自衛隊の司令部間の連携を進める「共同統合作戦調整センター(BJOCC)」を設置。さらに15年、「戦争司令部」とも言われた「同盟調整メカニズム」(ACM)が設置されましたが、今回の「枠組み向上」で狙われているのは、「調整」にとどまらないレベルの連携だということです。

 そのキーワードとなるのが「シームレスな統合」です。これは、「平時」から「有事」まで、あらゆる段階で切れ目なく、事実上、一つの軍隊として行動することを意味します。英紙フィナンシャルタイムズは「1960年の日米安保条約締結以後、最大の変更」だと指摘しています。

 林芳正官房長官は11日の記者会見で、「自衛隊と米軍はおのおの独立した系統に従って行動している。統合作戦司令部が米軍の指揮統制下に入ることはない」と説明しましたが、「シームレスな統合」を進める上で、自衛隊が装備面でも情報面でも圧倒的な実力を持つ米軍の事実上の指揮下に組み込まれることは不可避です。

 とりわけ、日本が導入を決めた敵基地攻撃能力の運用にあたり、攻撃目標を定めるための情報は米側に頼らざるをえません。

 重大なのは、米軍が想定する「有事」には憲法違反の集団的自衛権の行使にとどまらず国連憲章違反の先制攻撃まで含まれていることです。つまり、米側が「平時」から「有事」への移行を決定するのです。

 「シームレスな統合」が進み、事実上の統合司令部化が進んだ際、こうした戦争への動員を日本が拒否できるのか、あるいは拒否するのか―。日本はこれまで、米国の戦争に一度たりとも反対していない国です。

米英豪協力

分断と亀裂 さらに深刻化

 「格子状の同盟」。今回の日米首脳会談を前に、エマニュエル駐日米大使はこう繰り返してきました。米国が中心に座り、それぞれの同盟国と関係を結ぶ「ハブ・アンド・スポーク」から、米国の同盟国同士の連携を強めるというものです。

 その具体化の一つとして、共同声明に盛り込まれたのが、事実上の軍事同盟である米英豪の枠組み「AUKUS(オーカス)」への日本の協力検討です。AUKUSの協力分野は、(1)オーストラリアへの原子力潜水艦配備(2)人工知能(AI)や極超音速兵器、無人兵器など先端軍事技術―の二つの柱で構成されており、日本は(2)に関与します。さらに、日米英の共同訓練の定期化も盛り込まれました。

 「格子状の同盟」とは、中国包囲のための軍事ブロック網の強化に他なりません。日米がこうした対応をとれば、中国もロシアや北朝鮮などとの連携を強め、軍事ブロック化することは避けられません。世界の分断と亀裂をいっそう深刻化し、軍拡競争の悪循環を高める危険な動きです。

産業動員

「死の商人国家」の道 歩む

 共同声明はさらに、武器輸出のルールを定めた「防衛装備移転三原則」と運用指針の改定=殺傷兵器の輸出解禁を「歓迎」。日本の軍需産業を動員し、「日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」を開催し、(1)ミサイルの共同開発・生産(2)日本やグアムに前方展開している米艦船・航空機の日本での修理―などを進めることを盛り込みました。

 既に、運用指針改定の第1弾として、昨年末、米国に地対空誘導弾ペトリオットを輸出。こうした動きが加速し、日本が「死の商人国家」の道を歩むこととなります。また、米艦船の修理は、既に一部で民間委託されていますが、これを定期化することが検討されています。これにより、米軍の即応能力を高める狙いです。

 こうした動きのなかで、多くの民間技術者が米国などの機密情報に接する機会が増大します。先に述べたAUKUSへの協力を含め、軍需産業や技術者を米戦略に大規模動員する一連の動きが、「適性調査(セキュリティー・クリアランス)」を経済分野まで拡大する経済秘密保護法案を推進する大きな背景です。(竹下岳)

経済安保

先端技術 軍事動員を宣言

 「日米こそが世界の安定と繁栄に向けて国際社会をリードしていく」(岸田首相、9日の米国ビジネスリーダーとの昼食会)―。日米両首脳は、経済分野でも米国の覇権のために一体で取り組むことを確認しました。先端技術を軍事転用し、半導体や重要鉱物のサプライチェーン(供給網)を確保するなど経済安全保障政策を強化します。中国との対立を深める米国の軍事戦略に日本の学問や経済を組み込む狙いです。

 共同声明では、人工知能(AI)、量子技術、半導体など「重要・新興技術の振興および保護等によって日米の技術的な優位性を高めるとともに、我々の経済安全保障を強化する」と表明しました。本来、国民生活に資する先端科学・技術を軍事動員していくと宣言したものです。

 宇宙については、極超音速滑空兵器を探知・追尾するための衛星コンステレーション(小型衛星群)に関する日米協力を表明しました。「宇宙は、今や明白な戦闘領域である」(国防宇宙戦略)と位置づける米宇宙軍の指揮下でスパイ衛星の運用体制を強化します。

 AI・半導体の産業支援では、資金調達を含めて日米連携を強化しました。AIでは日米の大学が連携する新たな枠組みを提示。次世代半導体分野では、研究開発から人材育成まで日米の「共同技術アジェンダ(実行計画)」を策定します。非先端半導体分野では対中国を念頭に、他の同盟国と情報共有や政策調整を進め、「非市場的政策や慣行から生じる脆弱(ぜいじゃく)性に対処」すると強調しました。

 「経済安全保障」の名で学問と経済を軍事に動員し、中国との軍拡競争の悪循環にいっそうはまり込む危険な道です。世界経済に深刻な分断と対立をもたらしかねません。憲法を持つ日本は科学・技術の平和利用に徹し、その立場から米中双方に働きかけるべきです。

原発

破綻政策 固執する異常さ

 日米両首脳は原子力発電の推進を確認しました。ファクトシートによると、バイデン大統領は岸田政権の原発再稼働政策を「称賛」。電気出力30万キロワット以下の原子炉「小型モジュール炉(SMR)」などの導入に向けた取り組みを確認しました。

 小型と言っても、実現のめどが定かでなく、事故のリスクや処分の見通しもない「核のごみ」の発生など原発の本質は変わりません。昨年11月にはSMRを開発する米企業が国内の建設計画を中止したばかり。破たんした原発政策に固執する日米両政府の異常さが浮き彫りになっています。(日隈広志)


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