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2023年12月16日(土)

大分・大型弾薬庫建設の強行

“普通の暮らし”奪った

安保3文書閣議決定1年

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 「私たちは心配なく普通に暮らしたいだけ。国の政治をしている人たちは国民の生活や命を守るのが仕事のはずなのに、どうしてこんなことを」―。5歳の子どもを育てる女性はこう語り、表情を曇らせました。

 11月29日、防衛省九州防衛局は大分市の住宅密集地のど真ん中に位置する陸上自衛隊大分分屯地(通称=敷戸弾薬庫)で、大型弾薬庫2棟の着工を強行しました。予定地から約1キロのところに住む女性。「娘が小学校に上がる前に引っ越そうかなとも考えた。説明会では『安全』と言っていたが不安が払しょくされなかった」

住宅密集地に

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(写真)住宅密集地のど真ん中に位置する分屯地(奥の丘陵全体)。点線で囲っているのが建設中の病院=14日、大分市

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(写真)分屯地のそばで大型弾薬庫予定地の方向を指さす宮成さん。指した先には消火用水のドラム缶が=13日、大分市

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(写真)保育所(右)に路地をはさんで迫る分屯地のフェンス(左)。フェンス内には「火気厳禁」の看板=14日、大分市

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(写真)団地(左)のすぐそばに位置する分屯地の施設(奥)=13日、大分市

 大型弾薬庫は、昨年12月16日に岸田政権が閣議決定した安保3文書(別項)にもとづくもので、違憲の敵基地攻撃兵器=長射程ミサイルを保管するため、2032年度までに全国に約130棟を整備する計画。敷戸がその第1弾で、1棟目が25年12月ごろ、2棟目が26年度中に完成を予定しています。

 安保3文書 (1)国家安全保障戦略(2)国家防衛戦略(3)防衛力整備計画―の3文書。

 有事になれば、弾薬庫は真っ先に標的となります。周辺には、住宅地だけでなく保育園、幼稚園、子ども園、大分大学などが存在します。大型弾薬庫建設に反対する住民らでつくる「大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会」によると、周辺の5小学校区に2万世帯約4万人が暮らしているといいます。

 予定地から800メートルの自宅に40年以上暮らし、3人の子どもを育て上げた、「市民の会」共同代表で敷戸北町の元自治会長の宮成昭裕さんは、「戦争になれば敷戸かいわいはすべて危険域だ。それを何もしないで『はい』とは言えない」と強い懸念を示しました。

 分屯地周辺の住宅街には、路地を挟んだ反対側まで分屯地のフェンスが迫っている場所もあり、大型弾薬庫予定地から400メートルの距離にある保育所付近のフェンス内外には「火気厳禁」「危険」などの看板とともに消火用水用のドラム缶が並んでいました。分屯地から50メートルの場所にある鴛野(おしの)小学校の近くでは病院が建設中です。

一切説明拒否

 1986年、当時の防衛庁は、敷戸弾薬庫内にTNT火薬換算で約千トンの弾薬を保管していることを認めました(4月、衆院安保特別委員会)。「市民の会」が今月発表した声明は、爆薬千トンの破壊力は広島型原爆の15分の1に相当し、千トンをまとめて保管した場合は、学校や住宅などとの間に確保しなければならない「保安距離」は計算上3キロを超え、同弾薬庫の敷地の広さでは足りないと指摘しています。

 それにもかかわらず、今回の大型弾薬庫建設に関する住民説明会(11月2日)で防衛省は、長射程ミサイルの有無を含め、保管する弾薬の量や種類について一切の説明を拒否。「関係法令に基づき(大型弾薬庫を)整備する。安全性に万全を期している」と強弁しました。その後、説明会は開かれていません。

戦争計画に組み込まれ

 「市民の会」事務局次長の合田公計(ごうだ・きみかず)大分大学名誉教授は、今回の大型弾薬庫建設は「国際人道法の追加議定書違反だ」と批判します。

 日本も2004年に加入した国際人道法の第1追加議定書(1977年採択)は、弾薬庫などの軍事目標の近傍から住民を避難させることや人口密集地やその近辺への軍事目標設置を避けるよう求めており、国際赤十字は、こうした配慮は平時からされるべきで「軍用装備や弾薬の倉庫を町の真ん中に建てるべきではない」としています。

 問題は分屯地周辺だけにとどまりません。声明は、ミサイルの陸上輸送や26キロ離れた陸自湯布院駐屯地(大分県由布市)への来年度の地対艦ミサイル部隊配備を考えれば、「市民・県民全体に及ぶ大問題」だと警告しています。

 防衛省の資料によると、今年10月に行われた陸自と米海兵隊の大規模合同演習「レゾリュート・ドラゴン23」では、弾薬が同分屯地から市内の公道を通り大分港から沖縄県の米海軍ホワイトビーチや米空軍嘉手納基地を経て鹿児島・奄美大島の陸自瀬戸内分屯地まで運ばれました。合田さんは、「敷戸弾薬庫は、南西諸島の戦争計画に組み込まれている」と指摘します。

 宮成さんは「やはり平和外交で戦争を防ぐ努力を。安保3文書、日米安保条約と、すべてがつながっている。専守防衛が変わってきている。私たちの時代で戦争が起こっては困る。ましてや子どもや孫たちの時代に起こしてはならない」と訴えました。

 (小林司)


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