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2023年12月3日(日)

きょうの潮流

 市井の人々の心のひだを丁寧にすくい取ったテレビドラマの数々が忘れられません。脚本家の山田太一さんが亡くなりました。89歳でした▼「男たちの旅路」(1976年)で元特攻隊員が人々の叫びに耳を傾け、「岸辺のアルバム」(77年)は家族崩壊を描き、当時のホームドラマに一石を投じました。自己肯定を模索する青春群像劇「ふぞろいの林檎たち」(83年)。いずれも世間の「常識」とされていたことを問いかけて、名作といわれます▼ラフカディオ・ハーンを主人公にした「日本の面影」などで山田作品の音楽を手がけた作曲家の池辺晋一郎さん。本紙の対談で「当たり前だと考えて記憶に残っていないことを、もう一回鮮明にさせてくれます」と▼「マイナスをよけては書けません。マイナスの持つ豊かさが書ければもっといい」。山田さんは、70年代から80年代、倉本聰、向田邦子、早坂暁らの各氏と切磋琢磨(せっさたくま)してドラマの黄金期を築きます▼それまで台本はドラマの添え物として扱われ、収録が終われば捨てられていました。台本を収集・保存して公的機関で公開する「日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム」の代表理事を務めました。後進のためにもと尽力したのです▼「テレビドラマは文化です。商品ではない」と言い切り、小説や詩歌に引けを取らない「シナリオ文学」を打ち立てました。今のテレビドラマは多くが漫画原作で占められています。消費されるだけでいいのか。肉声が響く山田太一ドラマ、もう一度見たかった。


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