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2023年12月2日(土)

主張

生活保護削減違法

国の誤り明白 引き上げ直ちに

 安倍晋三政権が強行した生活保護費の基準引き下げは違法とし、減額処分取り消しを命じる判決が11月30日、名古屋高裁で出されました。生活保護利用者が減額によって大きな生活苦を強いられたと認定し、原告13人全員に慰謝料を支払うことも国に命じました。引き下げの違憲・違法性を問う「いのちのとりで裁判」は全国29の裁判所で30件たたかわれていますが、国家賠償を認めた判決は初めてです。減額取り消しの判決としても1高裁12地裁となりました。岸田文雄政権は減額処分の誤りを認めて上告を断念し、直ちに基準を元に戻すべきです。

賠償命じる判決は初めて

 2013~15年、安倍政権は生活保護費のうち食費や光熱費などにあてられる生活扶助費の基準引き下げを段階的に実施しました。削減幅は平均6・5%で、世帯構成や地域によっては最大10%カットされました。総額670億円の削減額は過去最大規模でした。

 政府は、物価下落などを基準引き下げの理由にしました。これに対し名古屋高裁は▽算定に使われた厚労省独自の消費者物価指数は学術的裏付けがない▽下落率算出の起点も物価が一時的に上昇した08年にしている―などとし、「統計などの客観的数値との合理的関連性や、専門的知見との整合性を欠く」と指摘しました。そして、厚生労働相の裁量権の範囲逸脱・乱用は明白であり、生活保護法に違反すると断じました。

 名古屋高裁判決が注目されるのは、減額の違法性を認めただけでなく、減額を行った厚労相に「重大な過失がある」「違法性が大きい」と踏み込んだ判断を示したことです。

 判決は「過去に例のない大幅な生活扶助基準の引き下げの影響は生活保護受給者にとって非常に重大なものである」と述べました。その上で、もともと余裕のある生活ではなかった原告たちは、支給額の引き下げ以降9年以上にわたり、さらに余裕のない生活を強いられており「相当の精神的苦痛を受けた」と認定しました。

 精神的苦痛は減額処分が取り消されたからといっても「全てが慰謝されるものではない」と結論付けて国家賠償を命じたことは、減額で苦境に立った生活保護利用者の実態に心を寄せたものです。

 判決は生活扶助について、憲法25条が保障する「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を基礎とする制度であり、「本来国はその向上・増進に努めなければならない」と強調しました。生活保護費の基準は、住民税の非課税基準の設定など国民生活のさまざまな分野に連動しています。

 生活保護制度の改善・拡充こそ必要です。物価高騰で生活困窮に追い込まれる人たちの命と暮らしを守るために、基準を早急に元に戻すだけでなく、引き上げを決断しなければなりません。

引き延ばし許されない

 20年の名古屋地裁の一審判決は国の主張を追認した、原告敗訴の不当判決でした。今回、名古屋高裁で逆転完全勝訴を勝ち取ったことは、原告・弁護団・支援者の粘り強いたたかいの重要な成果です。今年の地裁判決は原告が8勝1敗となっており、国の違法性は一層明白です。原告の多くは高齢化しています。国が裁判を引き延ばすことは許されません。


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