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2023年11月10日(金)

AGC子会社 男性だけ家賃8割補助

“20倍”の男女格差、裁判で問う

 男性だけが賃貸住宅を社宅扱いにできる社宅制度を利用し、女性との格差はおよそ20倍―。日本経団連の会員企業AGC(旧旭硝子)の子会社で、コース別制度に隠れた女性差別が行われています。男女差別賃金の是正を求めて労働組合に加入し、東京地裁に提訴した女性(44)が10月23日、子会社の社長とともに証人尋問に立ちました。(染矢ゆう子)


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(写真)AGCグリーンテック社が入るビル(中央)=東京都千代田区

 原告の女性は、男性との賃金や住宅手当の格差を「女性差別としか思い当たることはありません。総合職相当の仕事をしてきたのに悔しいし、許せない」と訴えました。

 原告が働くのは農業用フィルムを扱うAGCグリーンテック社。同社の加藤博社長はAGCの出向社員です。同社は東京本社(千代田区)のほか埼玉、愛知、福岡の各県に営業所があります。

 現在の一般職は原告を含む5人全員が女性。総合職は、提訴後に入社した女性1人を除いて全員男性です。

 訴状によると、会社は総合職のみ家賃の最大約8割と初期費用、更新料を負担しています。一般職は自宅通勤者で月3000円、賃貸者で月6000円の住宅手当のみ。総合職と一般職では最大で24倍、月11万3千円以上の格差があります。

 賃金差別もあります。2018年の賃金改定までは、総合職の年齢給は45歳まで、経験給は30年間昇給がありました。これに対して一般職の年齢給は40歳まで、経験給は10年間しか昇給がありませんでした。18年の賃金改定で、総合職のみ昇格制度ができ、最大20倍以上の速さで給与等級が上がるしくみになりました。

 証人尋問で、原告は裁判官に対し「男女でしか説明できない差別です。会社の責任を問う判決を出してほしい」と求めました。

「女性は一般職」 差別なお

業務内容同じなのに…来年1月結審

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(写真)女性活躍推進に優れた企業に選ばれたと宣伝する、親会社AGCのホームページ

 男性のみに家賃の最大8割を補助する、社宅制度の是正を訴えた裁判。原告はAGCグリーンテック社に対し、自身が総合職の地位にあることを認めることと、住宅手当と賃金のこれまでの差額分の賠償を求めています。

 男女雇用機会均等法は、性別で「総合職」と「一般職」に分けることを違法としています。

 しかし、10月23日の証人尋問で原告は、入社当時、一般職は女性、総合職は男性しかおらず、「一般職の会議は女性会議や女性ミーティングと呼ばれていた」と証言。さらに、業務が総合職と変わらないことを主張しました。

「転勤」理由に

 原告は2008年4月に「紹介予定派遣」で経理として働きはじめ、同年7月ごろに事務職の正社員として採用され、管理室の業務に従事しました。「一般職」の採用とは言われないまま、「一般職」にふり分けられました。

 10年、総合職だった男性の管理室長が突然退職。次の室長が来るまでの4カ月間、原告は元室長の業務を1人で行いました。その間、引き継ぎもなく、誰も原告に業務を指示していません。新しい室長が着任後も21年まで11年間、元室長が行っていた給与計算など多くの業務を続けました。

 11年から12年まで室長補佐を務めた総合職の男性は、裁判所に提出した陳述書で、退職する際に「(男性がしてきた)会計に関する業務は、原告に引き継ぎました」と書いています。

 総合職の要件について加藤社長は「営業職と管理職、管理職候補。転勤に応じられること」と証言。女性が応じにくい「転勤」を総合職の要件だと強弁しました。しかし、原告が働き始めた08年から20年1月までの総合職34人のうち、転勤した人は11人しかいません。

 必要性もないのに、わざわざ「転勤」を要件に入れてコース別人事を行うことは、男女雇用機会均等法に違反します。一方で、提訴後に採用した総合職女性は「転勤がない」ことを条件として採用した、と社長は証言しました。

 社長は事務職の総合職の役割について、「決裁と承認の業務」などと高度の判断が必要だ、と証言しました。原告は法人印の実印や銀行印が必要な手形の裏書き、役所に提出する書類などの決裁業務を単独で行ってきたことを証言。前述の陳述書は、原告の業務を「判断が必要な業務」「原告以外判断ができた人はいなかったと思います」と明記しています。

転換制度なし

 これまで一般職から総合職に転換した例はありませんでした。しかし、証人尋問の1週間前の10月16日、一般職男性が社内公募により総合職に。原告が提訴した4カ月後の20年11月には、会社は事務職の総合職に女性を採用しています。

 「なぜ総合職の女性を入社させる前に、原告を総合職にしなかったのか」「転換制度をなぜつくらなかったのか」という原告側弁護団の質問に、社長は答えることができませんでした。

 裁判の傍聴には、原告が加入する「ユニオンちよだ」や千代田区労連、千代田区労協、新日本婦人の会、原告の短大時代の同級生など45人が駆け付けました。

 住友化学工業の男女差別裁判で、04年に勝利和解した石田絹子さんは、大阪府箕面市から訪れました。「男だから総合職、女だから一般職という差別がいまだにまかり通り、裁判をしていることにびっくりした。これからも支援したい」と激励しました。

 証人尋問を終えた原告の女性は、「会社では10年以上1人でたたかい、心細い思いもしました。みなさんの応援がありがたい」と、この日初めて笑顔を見せました。

 裁判は24年1月19日に結審する予定です。


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