しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2023年11月3日(金)

主張

国立の文化施設

政府は振興・支援に責任果たせ

 東京都千代田区の国立劇場で、先月末まで「初代国立劇場さよなら特別公演」が行われました。国立劇場の大劇場と小劇場は1966年の開場以来、歌舞伎や文楽、舞踊、邦楽、雅楽など伝統芸能の魅力を伝えてきました。隣接する国立演芸場も79年以来、寄席公演を続けてきました。老朽化を理由にいったん閉場し、2029年再開をめざして建て替える計画です。

建て替え計画が暗礁に

 伝統芸能の各ジャンルでは6年にわたり、国立劇場の主催公演は別会場への移転を余儀なくされます。歌舞伎公演は、主に演劇などに使われている新国立劇場(渋谷区)の中劇場に移ります。花道が作れず、大規模な回り舞台やせりもできないため、上演演目に制約が生じることが懸念されます。

 文楽の東京公演は、足立区千住のシアター1010(センジュ)などに移ります。しかし、太夫や三味線奏者の登場する床の設置などに制約があり、不安の声も聞こえます。日本の伝統芸能の殿堂ともいうべき国立劇場の閉場は、首都圏の劇場不足に拍車をかけています。

 重大なのは、いま国立劇場の建て替え計画が暗礁に乗り上げていることです。同劇場を運営する独立行政法人・日本芸術文化振興会(芸文振)は2020年、PFI(民間資金活用による社会資本整備)方式による新劇場の整備計画を発表しました。高層ビル化し、劇場のほか、上層階にホテルやレストランなどの商業施設を併設して「文化観光拠点」にする構想です。「稼ぐ文化」の名で国立文化施設に収益性の追求を押しつける路線の具体化です。

 ところが昨年10月、請負業者を決める入札には1社も応じませんでした。振興会は今年6月、事業内容を見直して2回目の入札を行いましたが、結局すべての業者が辞退しました。建設資材や人件費の高騰が原因と見られ、劇場再開のめどが立っていません。

 国立劇場は、もともと国の文化施設として設置されたものです。しかし、独立行政法人に移管以後、政府が04年度をピークに運営費交付金を削減し、運営は厳しさを増していました。国は国立劇場を改修維持する責任も放棄しています。芸文振は、ほんらい芸術文化団体を支援するために拠出された基金500億円を国庫に返納して建て替え資金に充て、不足分は民間資金に頼るとしています。

 PFI方式の採用が、事態の混迷の大きな要因です。根本には日本の貧困な文化予算と「稼ぐ文化」の考え方を押しつける自民・公明政権の姿勢があります。

 国立博物館・美術館も苦境にあります。今年8月、東京・上野の国立科学博物館が、標本の保管にかかる電気代高騰で資金がひっ迫し、急きょクラウドファンディングを開始したことが話題になりました。東京国立博物館の藤原誠館長も、1月発売の月刊誌で「国宝を守る予算が足りない!」と窮状を訴えましたが、政府は予算の増額要求に応じませんでした。

予算の抜本的な増額こそ

 岸田政権は来年度予算の概算要求で7兆7千億円もの軍事費を計上する一方で、文化庁予算は1千億円台に抑え込んでいます。「文化芸術立国」を言うのなら、文化予算を抜本的に増やし、国立劇場の再整備をはじめ国立文化施設の支援に責任を果たすべきです。


pageup