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2023年10月19日(木)

主張

手術要件は違憲

自認する性別尊重する社会を

 戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受けなければならないと定めた「性同一性障害特例法」の規定は憲法違反だとする家事審判が静岡家庭裁判所浜松支部で決定されました。同法の規定は、憲法13条(幸福追求権)に違反し、無効だとしました。同規定を違憲とした司法判断は初めてとされます。審判は確定し、申立人は手術をしないまま性別変更をすることが可能となりました。自分の生き方や体のことを自分で決めるのは当然の権利と認めた画期的な司法判断です。

負担が大きく人権を侵害

 申立人の鈴木げんさんは、戸籍上の性別は女性で、男性を自認するトランスジェンダーです。幼少期から自分が女性であることに違和感を抱き、葛藤を抱えたままおとなになりました。

 2015年から現在の名に改名し、ホルモン治療を始め、乳房切除術も受けました。ひげが生え、筋肉量と筋力が増加し、声も低音化するなど外見の変化が進み、生理もありません。医療ケアによって身体違和は解消し、男性として社会生活が送れるようになり、生きやすくなったと言います。

 鈴木さんには女性のパートナーがいますが、戸籍上は同性同士のため婚姻届が出せません。外見と戸籍上の性別が違うことで、医療機関の受診や選挙の投票などさまざまな場面でトラブルや偏見にぶつかる恐れがつきまといます。

 戸籍上の性別を変更するには、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」と特例法が定めた要件を満たすことが、必須とされています。

 鈴木さんは2人以上の医師によって性同一性障害の診断を受け、▽18歳以上▽婚姻していない▽未成年の子がいない―など性別変更に必要な他の要件は全て満たしています。

 卵巣を摘出しなくても外見も身体違和も変わらないのに、なぜ手術を受けなければならないのか。手術は金銭的にも負担が大きく、健康上のリスクも伴います。

 鈴木さんは「本人が望まない手術を強制することは人権侵害ではないか」と考え、21年に家裁浜松支部に申し立てました。

 浜松支部の審判は、特例法の規定が、身体への侵襲を受けない自由を制約する面があると指摘しました。性別変更ができなければ「自己の人格的存在が否定されているかのような心情」に陥ることとなり、そうした苦悩の解消は「重要な法的利益」だと述べました。自認する性別で生きることは人権であることを明確にしたことは極めて重要です。

誰もが自分らしく生きる

 審判は、「手術要件をなくすと安易な性別変更の申し立てがされる」との意見について、そうした懸念があるとは認められず、仮に懸念を認める場合も、他の要件の審理を相応に厳格に行うなどして対応すればよいとの見解を示しました。自民党内の一部が「手術要件をなくすと公衆トイレなどで女性の安全が脅かされる」とトランスジェンダーに対する誤った言説を流布する中で、事実に基づき、人権の保障に根差す判断を示したことは注目されます。

 誰もが自分らしく生きられる社会へ、大きな扉が開きました。性的少数者が抱える困難に思いを寄せ、ともに歩みを進めましょう。


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