2023年9月18日(月)
解剖岸田大軍拡 24年度軍事費は…
乱立する攻撃ミサイル
「防衛力の抜本的強化に踏み出す決断をした」。岸田文雄首相は13日、内閣改造後の記者会見で2年間の政権運営を振り返り、こう自賛しました。史上最悪のアメリカ言いなり・岸田政権が戦後史に残した最大の負の遺産=安保3文書に基づく「戦争国家」づくりを本格的に進めるため、2024年度概算要求に7・7兆円もの軍事費が計上されました。その危険な中身を検証します。
「平生から他国を攻撃する兵器を持つことは憲法の趣旨とするところではない」(1959年3月、伊能繁次郎防衛庁長官)。敵基地攻撃能力の保有は違憲という政府見解は、今日も維持されています。ところが防衛省は24年度概算要求で、8種類もの敵基地攻撃兵器=長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」取得・量産・開発・研究費を計上しました。23年度予算で一括購入する米国製の長距離巡航ミサイル・トマホークを含めれば、実に9種類。トマホークだけで400発。最終的に数千発を保有するとみられます。これのどこが「平和国家」、「専守防衛」なのか。タガが外れた異常なミサイル大軍拡の実相は。
他国領土の攻撃
【トマホーク】射程1600キロにおよび、イラクやアフガニスタンなどの先制攻撃戦争でくり返し使用されてきました。日本が取得予定の「ブロックV(5)」は、他国領土への攻撃に特化。厚い壁や地面を貫通し、無数の破片が飛び散り、地下司令部の破壊が可能となります。
日本政府は400発を一括購入。横須賀(神奈川県)、舞鶴(京都府)、佐世保(長崎県)各基地のイージス艦8隻に搭載し、米海軍と一体になって「飽和攻撃」=大量同時発射が狙われています。
戦闘機にも搭載
【JASSM、JSM】戦闘機にも長射程ミサイルを配備します。米政府は8月、「JASSM―ER」(射程約900キロ)。50発と関連装備の売却を承認。空自のF15戦闘機能力向上型に搭載されます。F35A戦闘機に搭載するノルウェー製の「JSM」(射程約500キロ)の取得も続けています。戦闘機は、空中給油で他国領内まで侵入し、奥深くまで攻撃が可能です。
南西諸島に配備
【12式地対艦誘導弾】防衛省は、数多くの国産ミサイルにも着手します。“目玉”とされるのが、射程を1000キロ以上に延ばす「12式地対艦誘導弾能力向上型」です。23年度から地上発射型の量産に入り、概算要求では取得費951億円を計上。「艦艇発射型」と「戦闘機発射型」の開発を並行して進めます。新型護衛艦「FFM」と、F2戦闘機に搭載するとみられ、いずれも配備は27年度の予定です。
12式地対艦誘導弾を運用する部隊の配備計画も進められています。沖縄本島、宮古島、石垣島、鹿児島県の奄美大島に加え、大分県の陸自湯布院駐屯地にミサイル連隊を24年度中に新編する計画です。南西地域のミサイル基地化に、住民が不安と批判を強めています。
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無謀・非現実的な開発
高速滑空弾
ロケットで打ち上げられた後、音速を超える速度で複雑な軌道を描きながらグライダーのように滑空し、地上目標を破壊するミサイルです。エンジンを切り離すため、熱源を探知されにくく迎撃が難しいのが特徴です。防衛省は射程の短い「早期装備型」の開発・量産とともに、射程2000キロにも達する「能力向上型」の開発にも着手します。
極超音速誘導弾
音速の5倍以上で飛行し、射程は3000キロにまで達します。軌道も自在に変えられ、探知・迎撃がきわめて困難なため、戦局を大きく変える「ゲームチェンジャー」と言われる兵器です。東アジア全域を射程圏内に収め、周辺国に重大な脅威をもたらします。防衛省は地上に加え、潜水艦からの発射も想定しているとみられます。
潜水艦発射型誘導弾
米国、ロシア、中国、北朝鮮といった先制攻撃態勢を取る国々は、いずれも、核兵器を含む攻撃ミサイル発射のプラットフォーム(基盤)として、発射地点の特定が困難な潜水艦を用いています。防衛省も27年度までに潜水艦発射型ミサイルの開発を計画。地上に打ち上げるため、潜水艦への垂直発射装置(VLS)搭載も進めます。文字通り、先制攻撃国家の仲間入りとなりかねません。
新地対艦・地対地誘導弾
概算要求で、初めて開発費320億円が計上されたミサイルです。赤外線による誘導性能を高めたもので、射程も「12式地対艦誘導弾能力向上型よりも長距離」(防衛省担当者)を狙っています。開発期間は30年度までで、12式地対艦誘導弾の地上発射装置からの活用を可能にします。
目標観測弾
確実に標的を攻撃するため、地対艦ミサイルなどを撃つ前に、弾頭にセンサーやカメラなどを搭載して撃ち込むと見られますが、詳細は不明です。
弾薬庫が全国に
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こうした長射程ミサイルは従来の憲法解釈から見て違憲性が強く、国際法違反の先制攻撃にもつながるものです。同時に、自衛隊が従来保有してきた短距離や中距離など通常ミサイルの大量確保も深刻な問題です。
ロシアのウクライナ侵略を見ても分かるように、実際の戦闘では、高価な長射程ミサイルではなく安価な短距離ミサイルが多用され、多くの被害者を生み出しているからです。
従来、弾薬費は2000億円台で推移していましたが、23年度に8283億円、24年度概算要求では9303億円と急増しています。
弾薬庫の建設も相次いでいます。防衛省は、32年度までに大型弾薬庫を全国に130棟増設する計画です。すでに沖縄県の沖縄訓練場や奄美大島の瀬戸内分屯地をはじめ、北海道、青森県、京都府、広島県、大分県、宮崎県など全国で弾薬庫整備が計画されています。国土の狭い日本では住宅地の近くに弾薬庫が建設されるため、住民からは「攻撃の標的にされる」と反対の声が上がっています。
実際、ウクライナ軍とロシア軍は互いに弾薬庫を標的に攻撃しており、多くの死傷者や避難者が出ています。また攻撃を受けなくても爆発事故などのリスクが常に存在します。
増設される弾薬庫の用地取得をめぐって、近隣住民・自治体との矛盾が激化することも避けられません。
「スタンド・オフ・ミサイルを速やかに運用できるよう、準備を進めてほしい」。木原稔防衛相は14日、就任後の訓示でこう述べ、ミサイル開発の加速を求めました。
しかし、防衛省が進める大量のミサイル同時開発はあまりにも無謀で非現実的なものです。たとえば、12式地対艦誘導弾能力向上型の地発型は、概算要求に「開発」「量産」の経費が並行して盛り込まれています。通常は、「開発」→「量産」と段階を追うものです。
さらに、極超音速誘導弾は「開発」段階が31年度まで続きますが、概算要求では「量産費」85億円を計上。製造施設を建設するためのボーリング調査を実施するとしています。
元自衛隊幹部からも懸念の声が上がっています。元海上自衛艦隊司令官の香田洋二氏は3月の会見で、「常識的に言えば(ミサイル)開発四つに対して、成功するのは一つだ。(必要な予算を)全部積み上げれば、何十兆円という世界なのに、(失敗する)リスクを国民に説明しないのは無責任だ」と警鐘を鳴らしました。
悪循環もたらす
中国・北朝鮮がミサイル開発を進め、北東アジアに脅威をもたらしているのは事実ですが、これに対抗するために大量のミサイルを開発・配備すれば、他国も対抗して際限のない軍拡競争をもたらすことになります。日本が「平和国家」の看板を掲げるなら、こうした道に足を踏み込むべきではありません。