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2023年9月15日(金)

主張

大学ファンド

「稼ぐ」を強いる見せ金やめよ

 政府が創設した10兆円の大学ファンドを原資に支援を受ける「国際卓越研究大学」の候補第1号に、東北大学が条件付きで選定されました。文部科学省が今月1日、有識者会議の審査結果として発表しました。初回公募に申請していた東京大学や京都大学など9校は落選しました。

「選択と集中」大規模に

 有識者会議の審査をみると、年3%の事業成長という卓越大学の目標達成のために「稼げる」分野への「選択と集中」を全学規模で行わせようとしていることが分かります。有識者会議は、各学部単位・月単位で収支を把握し、戦略的な資金配分ができる仕組みを導入する東北大学の計画を高く評価しました。落選した大学にも、同様の改革の断行を求めています。

 卓越大学は、大学法人の人事など重要事項を決める合議体を設けなければなりません。過半数を学外者にすることが望ましいとされ、経営の主導権が学外者に奪われる危険があります。

 卓越大学に期待しているのは財界です。経団連は「『第6期科学技術・イノベーション基本計画』への意見」(2021年)の中で、大学ファンドの創設を「画期的」と持ち上げました。本来は企業が行うべき研究開発の分野まで大学に肩代わりさせるために大学ファンドの活用を渇望しているのです。大企業の利益となる研究分野を肥大化させ、それ以外を切り捨てる「選択と集中」を合議体に担わせることが狙いです。

 有識者会議が求める改革に応じたとしても財政支援の保証は全くなく、悪質なやり方です。大学ファンドは昨年の運用で667億円の損失を出し、安定した支援を続ける見通しは立っていません。卓越大学が何校になるのか、いくら支援を受けられるのか不明のまま、申請した10大学に組織改革を競わせています。

 ファンドの元本の安定化のために、卓越大学はファンドへの資金拠出を強要されます。京都大学教職員組合は、昨年11月の声明のなかで、運用に損失が出るなら大学も被害をうけると警告しています。卓越大学は、損失を被るリスクさえも伴っています。

 大学ファンドは財界が求める「選択と集中」を強いるための「見せ金」です。巨費で目をくらませ大学に介入しようとしています。

 文科省は、国立大学で卓越大学の合議体の設置を可能とする国立大学法人法改定案を臨時国会に提出する構えです。しかし、矛盾もあります。永岡桂子前文科相は1日の記者会見で、卓越大学が研究力低下の原因などの検証抜きに導入されたことを記者に批判され、制度検証の必要を認めました。

国立大交付金の増額こそ

 日本の研究力の低下は止まりません。いわゆる「質の高い論文数のランキング」で日本はこの20年で4位から13位に下落しました。主な原因は、04年の国立大学の法人化後、運営費交付金を1631億円も削減し、不安定な競争的資金に置き換えた「選択と集中」です。卓越大学制度は「選択と集中」をさらに強め、研究のすそ野を狭めるだけです。

 研究力の回復のためには削減された運営費交付金の復活など、基盤的経費の底上げこそ必要です。大学ファンドの運用と卓越大学制度は抜本的に見直すべきです。


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