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2023年8月30日(水)

主張

博物館の資金難

国は「宝」守る支援を強化せよ

 東京・上野の国立科学博物館(科博)が標本の保管にかかる電気代高騰などによる資金のひっ迫を訴えてクラウドファンディング(CF)を実施し、7億円を超える寄付が集まりました。CF開始から1カ月足らずで目標1億円を大幅に上回りました。同館の苦境に多くの人が衝撃を受け、呼びかけに応じたと言われます。

 国立の博物館でさえ、基本的な運営資金に事欠く事態に陥っていることは大問題です。資金に苦しむ博物館は全国各地にあります。自然環境や科学・技術、芸術文化の保護や継承にかかわる国の根本姿勢が問われています。

「お寒い現状」は各地に

 科博は、化石や動植物などの標本や資料を500万点以上収集・保管しています。膨大な数の標本などを万全のコンディションで保つには、温度や湿度の適切な管理が必要です。例年2億円前後の光熱費がかかりますが、今年度は2倍に膨らむと見込まれています。

 コロナ禍の入場料収入の落ち込みもあり、資金的な危機に直面し、展示に使う事業費の削減、職員が使用する研究費の返還を求めざるを得ない状況も生まれました。

 東京国立博物館(東博)も同じ状況です。同館の藤原誠館長は『文芸春秋』2023年2月号で「国宝を守る予算が足りない!」と文化財を取り巻く「お寒い現状」を明らかにしました。所蔵している文化財を適切な環境で保管し、修理修復する作業が物価高騰で困難になっているのに、政府に窮状を訴えて予算増額を求めても「ゼロ査定」にされたという告発です。

 科博も東博も独立行政法人として運営され、それぞれ年20億~25億円程度の運営費交付金が国から支出されています。01年の独法化以降、交付金は減少傾向にあり、日本学術会議が博物館のあり方についてまとめた20年の提言では「厳しくなる財政状況」を改善することが強調されていました。

 国は22年、科博や東博など「国立文化施設」の独法に「自己収入を増やすインセンティブ」強化の仕組みを導入しました。運営費交付金に「競争的資金枠」を設け、入場料収入やCFをはじめ寄付金の増加率に応じて再配分を行うというものです。各文化施設に自己収入を増やす競争をさせることで、国費の支出を抑制する狙いです。

 国立文化施設は、博物館、美術館、劇場とその性格も成り立ちも違います。それらの施設の収入を競わせ、限られた運営費交付金(23年度は323億5500万円)の取り合いをさせるやり方に道理はありません。国の文化施設に対する役割の放棄に等しいものです。

未来に引き継ぐ責任

 東博の藤原館長は先の論考で「寄付集めも当然重要ではあるが、計画的に修理を進めて行くためには、国による安定的な財源措置を充実すること」を求めています。国はこの声にこたえ、運営費交付金を抜本的に増額すべきです。

 19年の文化庁の全国調査では「資料購入予算がない」と答えた博物館は過半数で、郷土博物館の約70%、歴史博物館の約60%が厳しい運営を強いられている現実が浮き彫りになりました。多くの学芸員の雇用も不安定です。各施設の自助努力任せにできません。

 自然科学、文化、芸術、産業をはじめ未来につなぐ「宝」を守ることは国の大きな責任です。


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