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2023年8月16日(水)

きょうの潮流

 先月、第169回芥川賞を受賞した市川沙央(さおう)『ハンチバック』が話題です。記者も己の無知と浅慮を痛烈に思い知らされました▼先天性の筋疾患で人工呼吸器と電動車椅子を使って生活する著者が、等身大の女性・釈華(しゃか)を主人公に健常者中心社会の偽善と欺瞞(ぎまん)を暴き出していきます▼まず胸を突かれたのは〈読書文化の特権性〉の指摘です。目が見えること、本が持てること、ページをめくれること、姿勢を保てること、書店に買いに行けること等、健常性を要求する紙の本を当たり前のように享受する人々へ容赦ない視線を向けます▼外出も困難で読むことと書くことが生きる証しでもある釈華。〈紙の本を1冊読むたび少しずつ背骨が潰(つぶ)れていく気がする〉〈本に苦しむせむし(ハンチバック)の怪物の姿など日本の健常者は想像もしたことがないのだろう〉と嘆息し、紙の匂いや感触をめでて電子書籍をおとしめる〈本好き〉たちの独善性を批判します▼生きるために壊れていく身体を抱え〈普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢〉と言い放つ釈華の痛みと悲しみも衝撃でした。この言葉を、女性障害者の性と生殖の権利を奪う社会への身を切るような異議申し立てと読めば、命の選別を是とするこの国の種々相が浮かび上がります▼作中、障害者運動を担った女性たちの実名も記されます。「プロテストソングがあるならプロテストノベルがあってもいい」と語る著者。本作が営々と受け継がれてきた悲願の一つの結実にも思えました。


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