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2023年6月14日(水)

主張

研究者の雇い止め

「使い捨て」は国益に反する

 今年3月末、理化学研究所や一部大学で、任期付き研究者の大量雇い止めが強行されました。国が育成した優秀な研究者が海外に転出する“頭脳流出”が起きるなど国益を損なう事態が起きています。研究者の人権を踏みにじり、研究力に打撃を与える蛮行です。

日本の研究力に大打撃

 2013年施行の改正労働契約法により、有期雇用労働者は、契約更新で通算5年を超えると無期雇用への転換を申し込めるようになりました。14年、研究者は特例で通算10年に延長されました。

 国立の大学・研究機関では運営費交付金の削減で正規雇用が減る一方、競争的資金で雇用される有期雇用が増えていました。無期転換権が生じるのは施行後10年にあたる今年3月末でした。その前に雇い止めという脱法行為の横行が当初から危惧されていました。

 昨年5月17日、日本共産党の田村智子議員の参院内閣委員会での質疑で、通算10年に達する任期付き研究者は昨年4月1日時点で、国立大学で3099人、国立の研究機関で1390人いることが判明しました。約4500人の任期付き研究者が雇い止めの危機にあることに、与党議員からも驚きの声が上がりました。

 このうち今年1月1日時点で無期の職に就いたのは1655人でした。残り約3000人の多くは、3月末で雇い止めになり、大学や研究機関の職を失ったとみられています(田村議員の参院内閣委での質問、5月22日)。

 理研では380人が雇い止めの危機にありました。5人の研究者らが雇い止め撤回を求めて提訴し、労組が「使い捨てを許すな」とストライキを決行しました。労働条件の切り下げがありながらも196人が雇用継続となりました。

 しかし、184人は理研での雇用を失いました。このうち115人は他の大学や研究機関、企業への転出を強いられました。画期的な研究成果を上げていたにもかかわらず、民間企業に転職し、研究の場を失った人もいます。文部科学大臣若手科学者賞を受賞し、昨年、英国の科学雑誌『ネイチャー』に論文が掲載されるなど革新的な研究成果を上げていた若手研究者は雇い止めを強いられ、中国の研究機関に転出しました。

 世界で注目される論文数の国別順位では、日本はこの20年で4位から12位に転落しています。大量雇い止めが、これに拍車をかけることは間違いありません。

 10年前から危惧されながら、防げなかった責任は、政府・文科省にあります。同省が無期転換ルールを徹底する通知を出したのは昨年11月であり、予算措置もありませんでした。

 これからの事態も深刻です。田村議員の調査によると、来年3月末で有期労働契約が更新されて通算10年となる研究者は、国立大学で626人、国立研究機関で387人です。約1000人が雇い止めの危機に直面しています。

無期転換を促す予算を

 1000人の研究者の人件費は約70億円です。国立大学の運営費交付金は04年以降で1581億円も削られ、公的研究機関の研究開発費は2000年度以降550億円も削減されています。

 政府は、交付金を抜本的に増額して、無期転換を積極的に促し、雇用の安定化を図るべきです。


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