しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2023年3月15日(水)

主張

袴田さん再審決定

無罪への道を検察は閉ざすな

 1966年に静岡県内のみそ製造会社専務一家4人が殺害された強盗殺人事件で、死刑判決が確定した袴田巌さん(87)について、東京高裁は13日、裁判のやり直しを認める決定をしました。事件が発生してから57年、死刑が確定してからもすでに40年以上が経過しています。無実を訴え続けた巌さんと姉・袴田ひで子さん(90)の長年にわたるたたかい、弁護団や多くの支援者・団体の取り組みが再審への扉を大きく開きました。検察は再審決定を直ちに受け入れるべきです。これ以上審理を引き延ばすことは許されません。

証拠捏造の可能性を指摘

 死刑判決は1980年に最高裁で確定しました。最初の再審請求は認められませんでした。2014年、第2次の再審請求について静岡地裁は再審開始を決定し、巌さんは死刑囚として初めて釈放されました。ところが東京高裁は18年に同決定を覆します。これに対し、最高裁は審理が尽くされていないとして高裁決定を取り消し、審理を同高裁に差し戻し、今回の再審決定に至るという異例の展開となりました。

 争点は、事件から1年以上も後にみそ工場のみそタンクから発見されたシャツやズボンなどについた色の変化です。これら衣類には血痕の赤みが残っていたとされ、死刑確定判決の根拠とされました。弁護側は、実験結果などを踏まえ赤みは残らないと主張しました。東京高裁は今回の決定で、1年以上みそ漬けにされた衣類の血痕の赤みが消えることは「専門的知見によって合理的に推測できる」とし、巌さんが犯行時に着ていたという有罪判決の認定は「合理的な疑いが生じる」と述べました。

 さらに「事件から相当期間経過した後に、第三者がタンクに隠匿した可能性が否定できず、事実上、捜査機関による可能性が極めて高いと思われる」と、捜査当局が捏造(ねつぞう)した可能性に言及しました。

 死刑判決の根拠が根底から崩れていることが一層明白になりました。“つくられた証拠”をもとに無実を訴える人の死刑を求めて裁判を行ってきた検察側の姿勢はあまりに重大です。巌さんへの自白の強要も問題になっています。

 これまでの捜査と裁判への対応を厳しく反省すべきです。検察は特別抗告をせず、速やかに再審手続きに応じなければなりません。冤罪(えんざい)被害の一刻も早い回復に踏み出すことこそ求められます。

 袴田事件をめぐる経過は、日本の再審制度の欠陥を改めて浮き彫りにしています。現行法の再審をめぐる規定はわずかで、再審手続きを定めたルールはないに等しいのが現状です。証拠の開示も担当する裁判官の判断に左右される「再審格差」の是正を求める意見が相次いでいます。

証拠開示の法改定不可欠

 再審で、これまで公判で未提出だった証拠の開示を義務付ける刑事訴訟法の改正などが必要です。検察官が再審開始決定に対する不服申し立てを行うことを禁止すべきです。再審を開始してから、再審の公判のなかで検察は主張すればいいのです。

 巌さんは死刑の恐怖を長年強いられてきました。誤った捜査と司法判断で冤罪被害者の命が奪われないよう、死刑制度の廃止に向けた国民的議論が不可欠です。


pageup