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2023年1月18日(水)

きょうの潮流

 例年、正月休みには、12月中旬に発表された芥川賞候補作を読むのが楽しみです。新人作家たちが、どんなことに問題意識を持ち、現象の核心をどう捉え、読者に何を届けたいのか。第168回芥川賞の候補は5作▼圧倒的な切実さが迫ってくるのは、安堂ホセ「ジャクソンひとり」です。ブラックミックスでゲイの日本人男性が主人公。容姿で職務質問される国で卑劣な差別を受けながら、それらを無化しようとする人々の欺瞞(ぎまん)を暴き、軽やかに〈復讐(ふくしゅう)〉を実行していきます▼鈴木涼美「グレイスレス」は、アダルトビデオ業界で化粧師として働く〈私〉が、女優たちに寄り添いたいと願いつつも越えられない境界線を痛感し、罪悪感と無力感にさいなまれます。両者とも、これまで見えていなかった世界を突き付ける作品▼切なくも甘美な共感を覚えたのは、井戸川射子(いこ)「この世の喜びよ」。ショッピングセンターの喪服売り場の女性店員が、子育てしながら働き続けてきた日々を追想します▼グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」は、多言語社会を実感する作品。母親が話す米南部の英語とイラン人の義父のペルシャ語、東京の大学に留学している主人公の日本語の3言語を通して人間の普遍性を探ります▼東日本大震災から10年後の宮城を舞台に、喪失の苦しみから立ち直ろうともがく男を描いた佐藤厚志「荒地の家族」は、悲劇の忘却への静かな警鐘です。どの作品からも現代社会の姿がひりひりと伝わってきます。賞の決定は明日19日。


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