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2022年10月17日(月)

主張

賃金デジタル払い

安全性への疑念 残ったままだ

 岸田文雄政権が賃金の「デジタル払い」を解禁しようとしています。残高100万円を限度に「○○ペイ」などのキャッシュレス決済口座に賃金を振り込めるよう政省令を改定します。世論調査会社のアンケートでは労働者の多数が反対しています。口座を運営する業者が破綻した場合の賃金の保全など重大な問題が指摘されています。強行すべきではありません。

破綻時に全額守れるか

 労働基準法は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と厳格に定めています。銀行振り込みは、あくまで労働者の同意を得た上で可能な例外措置です。厚生労働省はこれを拡大しようとしています。

 同省は9月の労働政策審議会の分科会で「大筋了承された」として、2023年度にも導入する方針です。しかし審議会で出された「銀行口座と同等の安全性、確実性が担保されるのか」という肝心な疑問が未解決です。

 銀行には最低資本金の額や本業に専念する義務など、業務を維持し、預金を保全するための厳しい要件が法律で定められています。キャッシュレス決済口座を運営する「資金移動業」への新規参入は銀行に比べてはるかに簡単です。専業義務はなく、他の事業で失敗して破綻する恐れもあります。

 昨年、厚労省がデジタル払いの解禁を労政審に提起したときは労働者側委員が「安全性に大きな疑問がある」と批判し、了承を得られませんでした。

 今回、同省は、破綻時でも銀行と同等の保護が図られるようにするとの方向性を示しましたが、保証機関が確実に残高を保証できるのか、厚労省が資金移動業者を監督できるのかなど労政審で引き続き疑問が提起されました。

 個人情報保護も大きな問題です。賃金をデジタル払いにすれば、どの会社から誰にいくら賃金が支払われ、それを何に支出したかの情報が資金移動業者に集中することになります。本人同意のない個人データの利用を許さない仕組みが欠かせません。

 キャッシュレス決済口座から不正な出金があった場合、すみやかに補償されるかも不安視されています。

 労働者の同意も大きな問題です。企業が銀行への振込手数料を節約するため、デジタル払いを労働者に強制する可能性があります。

 厚労省は、労働者の同意なくデジタル払いをした場合、申告があれば、労働基準監督署が対応するとしています。違法な長時間労働の取り締まりさえ不十分なのに、実際に対応できるでしょうか。

世論調査でも多数が反対

 民間の世論調査会社が労働者を対象に実施した複数のアンケートではいずれも反対が多数でした。賛成は2~3割にすぎません。

 銀行振り込みに加えてデジタル払いに対応する必要が生じることを負担とする企業もあります。

 賃金デジタル払いの導入は、安倍晋三政権が成長戦略でキャッシュレス決済の比率を25年までに40%程度に倍増する目標を掲げたことに端を発しています。岸田政権もこの方針を引き継いでいます。

 キャッシュレス化は国民の利便性と合意を大前提に行うべきです。多くの欠陥、疑問がある制度を性急に押しつけなければならない理由は何もありません。


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