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2022年9月24日(土)

主張

NHK虚偽字幕

問われる政権寄りの報道姿勢

 昨年末放送のNHKのBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」に事実と違う字幕が付けられた問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を9日発表しました。取材・編集などの各段階で問題があったと指摘しました。同委員会の小町谷育子委員長は「放送は何のためにあるのかということを考えてほしい」と述べました。

「半ば捏造的」との声も

 問題の番組は、東京五輪の公式記録映画を製作した映画監督の河瀬氏らに密着したドキュメンタリーです。五輪開催に批判的な人々の声を取材する場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」との字幕を付け、インタビューに応じる男性の映像が流されました。

 男性が五輪反対デモに参加した事実はなく、金銭授受についても確証は得られていません。

 BPO意見書は「放送の結果、五輪反対デモは確固たる信念を持ったものが集まって行われているのではなく、主催者が金銭で参加者を組織的に動員し、主催者の意向に沿って行動させているという誤った印象を与えることとなった」と断じ、「取材、編集、試写の各段階に問題がある」と記しました。▽基本を欠いて事実確認をおろそかにした取材▽裏付けのない断片的な情報をつなぎ合わせた編集―認定された事実はあまりにずさんです。

 上司を含め試写は6回行われました。試写のたびに取材した内容から離れ、事実をゆがめる方向に変わっていきました。その要因について、意見書は、制作者側の「デモや広い意味での社会運動に対する関心の薄さ」を挙げました。さらに大きな背景として、デモやその参加者への「無意識の偏見や思い込みが潜んでいたのではないか」とも指摘しました。

 意見書発表の記者会見でBPO委員の1人が「(五輪反対デモで金銭受領がされていると)半ば捏造(ねつぞう)的に放送された。重過失に匹敵する」と厳しく批判しました。

 こうした事態の大本には、NHKが思考停止で政府に追随し、五輪開催の旗を振り続けたことがあります。コロナ感染拡大で緊急事態宣言が出ている中でも、五輪に前のめり報道を繰り返し、期間中は、ニュース時間を大幅に短縮してまで五輪一辺倒の放送を実施しました。

 BPO意見書は、世論を二分する中での東京五輪開催では「多くの角度から論点を明らかにするために…開催に批判的な国民の声にも耳を傾け、番組に反映させることが求められていた」「何らかの意図が局側で働いた結果、本件放送がオンエアされたのではないかという視聴者の不信を助長することとなった」と強調しています。

国民の疑念と不信高まる

 安倍晋三政権時代、当時の籾井勝人NHK会長は「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と発言し、批判を浴びました。いま安倍氏の国葬など国民の賛否が大きく分かれる問題が山積する中、NHKの岸田文雄政権寄りの報道姿勢に国民の疑念と不信は強まっています。時の政府の言い分を伝えるだけでは、公共放送の使命は果たせません。NHKの姿勢の根幹が問われています。


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