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2022年8月4日(木)

主張

常総水害訴訟判決

命・財産守る河川行政に転換を

 2015年9月の関東・東北豪雨で鬼怒川が氾濫し、浸水被害を受けた茨城県常総市の住民が国に損害賠償を求めた裁判で、水戸地裁は7月22日、国の河川管理の不備を認めて計約3927万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。水害訴訟では、国の責任を認めない判決が長年続いてきただけに、画期的です。河川行政のあり方を問う司法判断を国は真剣に受け止めるべきです。

国の河川管理不備認める

 常総市の水害では市内の3分の1にあたる約40平方キロメートルが浸水し、5千棟以上が全半壊しました。災害関連死を含め15人が亡くなる甚大な被害を招きました。

 裁判では、水があふれた同市若宮戸地区の河川管理が争点の一つでした。同地区では自然の堤防としての役割を持つ砂丘を太陽光発電事業者が掘削し、ソーラーパネルを大量に設置していました。市や地元住民は国土交通省に早急な堤防整備を要望していたものの、土のうを2段積んだだけでした。

 判決は、「若宮戸地区で氾濫が発生した場合には多数の地域住民らの生命・身体・財産に重大な被害が及び得ることは容易に予見できた」と認定しました。国は砂丘を含む区域を河川区域として指定するべきだったが、これを怠ったために砂丘が掘削され、「河川が備えるべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態となった」として、「河川管理の瑕疵(かし)があった」と国を断罪しました。

 水害訴訟では、河川整備は費用や時間がかかるので改修計画に特別な不合理がなければ国などの管理責任を問わないとする大東水害(大阪府大東市)訴訟最高裁判例(1984年)が踏襲されてきました。今度の訴訟と判決は、行政責任を極めて限定的に解釈し被害住民の訴えを退ける「水害訴訟冬の時代」に風穴を開けました。

 一方で判決は、もう一つの争点である常総市上三坂地区の堤防決壊では国の責任を認めませんでした。「改修計画における治水安全度の設定が格別不合理であったということはできない」とし、38年前の大東水害訴訟最高裁判決の枠内にとどめたことは問題です。

 裁判で原告は、決壊は越水により堤防の裏のり面から崩れておこるのだから堤防高が最も低いところから改修すべきだったと主張しました。この点は判決も「利根川水系(鬼怒川を含む)の過去約80年間における堤防決壊が起きた32カ所のうち28カ所が堤防越水による決壊である」と認めました。

 19年の台風19号では全国で140カ所の堤防が決壊しました。その86%は越水が原因です。国交省は、越水しても壊れにくい堤防強化工法を試験的に実施しています。台風19号で氾濫した長野県の千曲川流域では、住民の声を受けて「壊れにくい堤防」が実現しました。「耐越水堤防にしてほしい」という要望は常総市民からも継続して訴えられています。

総点検と対策拡充が急務

 気候変動を背景に、全国各地で記録的な大雨による河川の氾濫や浸水被害が相次ぐ中、河川の整備状況を総点検し、対策を拡充することが必要です。重大な被害が発生することが想定される場所では、特に対応が急がれます。堤防決壊を防ぐ工法の早期普及など、水害から国民の生命・財産を守る河川行政への転換が不可欠です。


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