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2022年7月20日(水)

主張

安倍元首相の国葬

国を挙げての礼賛許されない

 参院選中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の国葬を秋に実施するとした岸田文雄首相の方針に、疑問と批判が上がっています。首相経験者の国葬は1967年の吉田茂氏以来です。80年以降は、内閣・自民党の合同葬として行われてきましたが、安倍氏の扱いは極めて異例です。岸田首相は安倍氏の首相在任期間が最長だったことなどを挙げ「功績は誠にすばらしいものである」とたたえました。しかし、安倍氏の政治的立場や政治姿勢への評価は国民の中で大きく分かれており、礼賛一色にはできません。弔意の強制にもつながる国葬実施に反対します。

弔意の押し付けの危険

 安倍氏の国葬は参院選後(14日)の記者会見で岸田首相が発表しました。性急な決定について、安倍政治を検証する議論を封じる狙いを指摘する声も少なくありません。岸田氏は、国葬の理由について「卓越したリーダーシップと実行力」「東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績をさまざまな分野で残された」と安倍氏を絶賛しました。

 あまりに一面的な主張です。安倍氏は9条改憲の旗を振り、歴代政府の憲法解釈を覆して集団的自衛権の行使容認の閣議決定や安保法制を強行するなど「戦争する国」づくりを進めました。アベノミクスは格差と貧困を拡大し、異次元金融緩和の弊害は物価高などで一層顕著です。「森友」「加計」「桜を見る会」などの国政私物化疑惑も解明は尽くされず、「桜」前夜祭では国会で118回も虚偽答弁したことが大問題になりました。

 無法な暴力で殺害された安倍氏に追悼の気持ちを持っている人のなかにも、安倍氏の政治には厳しい批判をもっている人は数多くいます。しかも、安倍政治の問題点は、岸田政権が基本点の継承を表明しているように過去の話ではなく、現在の焦点課題です。安倍政治を国葬という形で国家として公認・美化することを通じ、自らの政権浮揚に利用しようという意図が感じられます。

 そもそも国葬は、安倍氏への弔意への強制につながる危険があります。弔意を示すか否か、どう示すのかは、誰に対してであれ、内心の自由にかかわる問題です。吉田元首相の国葬でも憲法20条(信教の自由)との関係で是非の議論があったとされます。同氏の国葬当日は、学校は午後から休校になり、歌謡ショーなどの番組がふさわしくないとしてラジオ・テレビから一斉になくなったといいます。菅義偉政権下の中曽根康弘氏の合同葬(2020年)では、文部科学省が全国の国立大などに弔旗や黙とうで弔意を表明するよう通知を出し、批判を浴びました。こんな事態を繰り返してはなりません。

国費全額負担にも疑義

 中曽根氏の合同葬の費用約1億9000万円は自民党と国で折半し、国費は9643万円でした。当時、コロナ下で1億円近くの税金を支出するのかと批判が相次ぎました。安倍氏が国葬となれば全額国費負担です。秋にはさらなる物価高騰で国民生活が苦しくなることが予想される中で、巨額な支出への疑問は尽きません。

 いま必要なのは、安倍元首相の8年8カ月の政治を事実に基づいて多面的に検証し、冷静な評価を行うことです。


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