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2022年7月11日(月)

中絶の権利守れ 米「女性の行進」

私たちは後戻りしない

“だからデモ参加”

 「私の体のことは私が決める」―。米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた約50年前の「ロー対ウェイド判決」を覆してから2週間あまり。首都ワシントンでは9日、政府に中絶の権利を守るよう求める「女性の行進」が行われました。(ワシントン=石黒みずほ、島田峰隆)


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(写真)集会でプラカードを掲げてアピールする参加者たち=9日、ワシントン(石黒みずほ撮影)

 中絶合法化のシンボルである緑のスカーフを身に着けた参加者は、「女性の権利は人権だ」「私たちは後戻りしない」などと書かれたプラカードを持ってアピール。ホワイトハウスまで行進しました。

 主催した「女性の行進」は、連邦政府が中絶を行う医療機関に対し追加資金を拠出することを可能にする緊急事態宣言の発出を求めています。同団体のレイチェル・オレリー代表は、「私たちはたたかい続け、必ず勝利する」と訴えました。

 バージニア州から2時間かけて集会に参加したケイティーさん(28)は「私にはあった権利を7歳の娘が行使できなくなることを考えると胸が張り裂ける。人間を大切にする社会にするためには、進歩的な変化が必要です。私は声を上げ続けます」と話しました。

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(写真)㊤祖母、母とともに集会に参加したケイリー・ホワイトさん(左)(島田峰隆撮影)
㊦集会で娘を肩車するクリスさん(石黒みずほ撮影)=いずれも9日、ワシントン

 「世界は人工妊娠中絶の権利を認める方向なのに米国は逆の方向に進んでいる」と語るのは、ウェストバージニア州から母と祖母と参加したケイリー・ホワイトさん(19)です。「これまで誰かがデモ行進をしてくれたから中絶の権利が認められてきた。だから私も今日デモ行進し、権利を守りたい」

 パートナーと共に参加したアマンダさん(46)=仮名=は、20代の頃に中絶した経験を明かし、「私は中絶をする選択肢があったことが心の救いだった。この問題は女性の人生を左右します。自分にあった選択肢を、若者たちが行使できなくなるのは悲しい」といいます。11月に行われる連邦議会の中間選挙について、「選択する権利は個人にあると主張できる人に投票したい」と語りました。

 「この問題は性別なんて関係ない。人権問題だ」と話すクリス・ディーンさん(38)は、妻と2人の子どもと参加。「この国は何世紀も前に引き戻されてしまったようです。娘の体のことを国が決めるなんて恐ろしい」と話します。「宗教的にもさまざまな考えがあるけれど、一人ひとりの尊厳が無視されることはあってはならない」と訴えました。

スポーツや芸能界からも

 今回の最高裁の判断に、スポーツや芸能の分野からも批判の声が上がっています。

 全米各地の州や郡などの司法関係者80人以上は共同声明を発表。「正義の追求の核心はあらゆる国民の幸福と安全を守る政策を促進することにある」として、中絶する本人や医療従事者、支援者を訴追することに加担しないと表明しました。

 米国サッカー女子代表チームのミーガン・ラピノー選手は「男性が多数派の最高裁が女性の体について決定するのは全く間違っているし、国民の願いとかけ離れている」と指摘。女子バスケットボール選手会は声明で、女性から自由を奪うことは経済的、社会的、政治的な不平等を助長するとして、「人間の尊厳への理解がない」と批判しました。

 歌手で活動家のシンディ・ローパーさん、19歳で俳優・歌手のオリビア・ロドリゴさん、ラッパーのケンドリック・ラマーさんなど芸能人も相次いで非難しています。

 米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、最新の世論調査で人工妊娠中絶を合法だと答えた人は61%。違法だとした人(37%)を大きく上回りました。中絶について合法だと考える人は1995年以来一貫して、違法だという人を上回っています。

同性婚など他の権利も窮地に

 今回の最高裁の判断をきっかけにして、国民が勝ち取ってきた他の権利が覆される危険があると指摘されています。

 1973年の「ロー対ウェイド判決」は、中絶合法化を求める女性たちの運動が実った画期的な判決でした。判決の根拠になったのは、プライバシー権を憲法上の権利として認めた米国憲法の修正第14条でした。中絶について憲法では明文化されていないものの、女性が中絶するかどうかを決める権利はプライバシー権に含まれるという判断です。

 ジェンダー平等を求める世論を受けて、連邦最高裁は1965年に避妊の権利を認める判決、2003年に同性同士の性行為の権利を認める判決、15年6月に同性婚を認める判決を出してきました。これらの判決の根拠になったのも憲法修正第14条でした。

 今回の最高裁の判断は「憲法は妊娠中絶については明記していない」とし、中絶の権利は「修正第14条を含む憲法の規定で暗黙的に守られてはいない」と指摘しました。

 クリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュ氏は、今回の最高裁の論理が適用されると「同性婚など中絶の権利以外の他のさまざまな権利全体が絶体絶命の窮地に追い込まれる」と警鐘を鳴らしています。ライシュ氏は、修正第14条によって国民は憲法に明記されていない権利を享受し、政府の不当な介入から保護されてきたと強調します。

 2004年にピュリツァー賞論説部門を受賞したレナード・ピッツ氏は米メディアで「今は女性の権利だが間もなくすべての人の権利が問題になる」と懸念を表明しています。

11月の中間選挙も焦点に

 「ロー対ウェイド判決」が覆されたことで、今後は州が中絶の禁止や制限を行えるようになります。中絶の権利を支援する団体によると、共和党が強い南部や中西部を中心にいくつかの州では中絶を禁止・制限する法律が発効。さらに全米の約半数の州で大幅に制限される可能性が高いとしています。

 バイデン大統領は8日、最高裁の判断を改めて批判し、人工妊娠中絶の権利を擁護する大統領令に署名しました。

 バイデン氏は州レベルで中絶を禁止する動きが出ていることについて「米国で巨大な後退が起きている」と指摘。11月に行われる中間選挙で中絶の権利を守る議員を連邦議会で多数派にして、「ロー対ウェイド判決」の中身を法制化しようと呼び掛けました。

 ハリス副大統領は8日、共和党が州議会で多数派を握り、中絶の禁止や制限が行われる可能性のある五つの州の民主党議会指導部と協議。ハリス氏は大統領令について説明し、性的少数者の権利への攻撃ともたたかっていくことを確認しました。

  「全米市民自由連合」(ACLU)などの人権団体は、少なくとも11州で、中絶禁止の差し止めを求める訴訟を起こしました。いくつかの州では中間選挙に合わせて、中絶の権利を州の憲法に盛り込むことについて是非を問う住民投票を目指す動きも出ています。


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