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2021年10月9日(土)

反省なし 聞く耳なし

岸田首相の所信表明演説

 8日の岸田文雄首相の所信表明演説では、これまでの自公政治への反省が全くなく、安倍・菅政治を引き継ぐという姿勢が改めて鮮明になりました。


感染爆発招いた失政ふれず

コロナ対応

 岸田首相は所信表明で、新型コロナ対応を第一の政策としましたが、感染爆発や多くの在宅死をもたらしたPCR検査抑制、「Go To事業」、東京五輪の強行開催、「原則自宅療養」方針の押し付けという四つの大失政には何ら反省を示しませんでした。

 岸田首相自身は昨年4月、自民党政調会長として『週刊東洋経済』のインタビューで「検査を拡大した場合、陽性という結果が出た後の対応が重要。陽性だった人が症状の軽重にかかわらず大病院に集中すれば、医療崩壊につながる」と主張するなど検査抑制論の中心人物でした。

 所信表明には、憲法に基づく臨時国会召集の要求に応じず、責任を果たしてこなかったことへの反省もありません。

 医療提供体制の整備・拡充は、具体的な方針や目標を示していない一方で、公的病院の統廃合計画も推進のままです。3回目のワクチン接種の準備や経口治療薬の年内実用化、ワクチン接種証明の活用などとワクチン頼みを強調するだけにとどまりました。感染対策の要である検査でも、「予約不要の無料検査の拡大」と述べましたが、総裁選時に掲げた政策からPCRの文言が抜け落ちています。

 所信表明では「何が危機管理のボトルネックだったのかを検証する」と語り、これまでの対応を分析するとしています。その中で、「司令塔機能の強化」や「人流抑制、医療資源確保のための法改正」などとしており、地方の自主性や人権の抑制につながる可能性もあります。

 経済支援についても、事業規模に応じた給付金や非正規、子育て世帯などへの給付金をうたいましたが、これは野党が要求してきたものです。

安倍政権と同じスローガン

「新しい資本主義」

 「私が目指すのは、新しい資本主義の実現だ」。岸田首相はこう打ち出しましたが、「マクロ経済運営」政策として挙げたのは「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略」の3本柱。9年間続けたアベノミクスそのものです。貧困と格差を広げたことへの反省がまったくありません。

 総裁選では「新自由主義からの転換」を掲げていましたが、早くもトーンダウン。「新自由主義的な政策については、富める者と富まざる者との深刻な分断を生んだといった弊害が指摘されている」と述べながら、「新しい資本主義」の「起動」を呼びかけ、安倍政権とまったく同じ「成長と分配の好循環」というスローガンを掲げました。

 岸田首相が創設を表明した「新しい資本主義実現会議」には、首相と「哲学が一致している」と自負する経団連の十倉雅和会長が参加を申し出ています。

 「成長戦略」では、「温暖化対策を成長につなげるクリーンエネルギー戦略を策定する」と述べましたが、同戦略は岸田氏の総裁選政策で「原発再稼働」を含むと明記していたもの。しかし、所信表明では原発推進に批判が強いとみて「原発再稼働」には一言も触れていません。

 岸田首相はまた、「多様で柔軟な働き方が拡大している」と述べ、不安定雇用の拡大を容認。75歳以上の医療費窓口負担2倍化の来年度後半の実施などを内容とする「全世代型社会保障の構築を進める」と宣言しました。

 「分配戦略」では、「賃上げを行う企業への税制支援」の強化に言及する一方、肝心の最低賃金の引き上げには一言もふれていません。

 コロナ禍にあえぐ国民の声や野党の提案に押されて、教育費や住居費への支援強化や看護師、介護士、保育士などの収入増を打ち出しましたが、具体策はこれからです。

 「新自由主義からの転換」は、安倍・菅自公政治から野党連合政権への政権交代でこそ実現できます。

被爆者・沖縄に顔を向けず

外交・安保

 「被爆地広島出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』だ」。岸田首相はこう強調しましたが、肝心の核兵器禁止条約に言及せず、「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め」ると述べるだけでした。

 岸田首相の親戚である広島の被爆者のサーロー節子さんは岸田首相に送った手紙で、「核兵器のない世界をめざすという発言が本当なら、今こそ行動に移してください」と条約参加を求めました。にもかかわらず、条約に背を向けるのは被爆者の切実な声を無視する恥ずべき態度です。

 一方、岸田首相は「わが国の外交・安全保障政策の基軸は日米同盟だ」と日米同盟強化をうたいました。沖縄県の辺野古新基地建設計画について、「工事を進める」と言い放ちました。沖縄県民は選挙や県民投票で「新基地反対」の意思を繰り返し示しており、県民の声を聞かない姿勢が如実に示されました。

 岸田首相は「経済安全保障推進のための法案を策定する」と表明しました。経済安保に関する法制定は、自民党の新国際秩序創造戦略本部が提言していました。本部長を岸田首相、座長を甘利明幹事長が務めています。

 経済安保を重視する背景には米中の技術覇権競争があります。同本部の提言は、半導体や宇宙、サイバーなどを「重要技術」と位置づけて技術強化や基盤の確保を主張。米国と歩調を合わせて、軍事的優位性を確保するために経済面で中国との対決を強める狙いです。

 岸田首相は、国家安全保障戦略と中期防衛力整備計画の改定を表明。これまで軍事費に関しGDP(国内総生産)1%枠にこだわらないと明言しており、軍拡強化を狙っています。

説明を放棄、一言も語らず

疑惑・ジェンダー

 岸田首相は、安倍・菅政権下で相次いだ「政治とカネ」問題や政治の私物化への反省には全く触れませんでした。

 岸田政権で大問題となっているのが、不正な金銭授受の疑惑がある甘利明氏の幹事長就任です。各社世論調査では甘利氏起用を「評価しない」が多数を占め、野党が同氏の疑惑をめぐる調査チームを設置するなど、「政治とカネ」問題が岸田政権を直撃しています。それにもかかわらず、岸田首相は疑惑に一言も触れず、国民への説明を放棄しました。

 再調査が求められている森友・加計学園問題についても一切語らず、疑惑にふたをする安倍・菅政権の姿勢を引き継いでいます。

国民の声聞かず

 総選挙の大きな争点でもあるジェンダー平等についても何の展望も示していません。

 コロナ危機で男女間の賃金格差による女性の困窮など構造的な女性差別が浮き彫りになる中で、ジェンダー問題に一言も触れないのは極めて深刻です。急務となっている選択的夫婦別姓の法制化や同性婚、LGBT平等法の実現への言及もありません。

 「特技は人の話を聞くこと」と豪語する岸田首相ですが、国民の声を全く聞かない姿勢が早くも露呈しています。


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