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2021年7月24日(土)

東京五輪

理念も大義も葬られた

スポーツ部長 和泉民郎

 これだけ人々の支持を失った大会があったでしょうか―。いつもなら喜びや祝祭の雰囲気に包まれる五輪なのに、東京大会にはそのかけらもありません。

 世論調査で「不安を感じている」が87%(「東京」)を占め、「開催反対」が55%(「朝日」)。あるのは、幾重にも折り重なった“不安”と“不信”の山です。開会式に3分の2のスポンサーが出席しない(NHK調べ)など、“民意”の離反は主催する側にも広がっています。

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 理由の一つは組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)、日本政府の命より五輪を優先させた、民意無視の姿勢です。

 新型コロナウイルスがどんなに拡大しようとも「安全・安心な大会」を繰り返す政府。組織委の森喜朗前会長の女性蔑視発言など相次ぐ不祥事とその解決能力に欠ける姿。日本で緊急事態宣言が出ているのに、「五輪とは関係ない」(バッハ会長)などと繰り返すIOCの姿勢がその根底にあります。

 IOCにとって、開催するだけで得られる約1300億円とも言われるテレビマネーの存在が、開催一本槍(やり)の背後にあることは間違いありません。

 コロナが克服できないこの時期に開催を強行したIOCと政府の責任が問われます。

 昨年3月、当時の安倍晋三首相が延期を決める際、周囲の「2年後に」という判断を聞かず独断で「1年後」と決め、IOCと合意したことが出発点です。

 今秋予定の自民党総裁選に有利とする自身の思惑がその動機だったといわれます。引き継いだ菅義偉首相も「五輪の成功」の余波で総選挙を有利にしようとする思惑が伝えられます。露骨な五輪の政治利用が、いまの事態を引き起こしています。しかし、端緒をつけた安倍前首相は開会式に出席すらしません。

 民意無視の大会は、アスリートを窮地に追いこんでもいます。コロナ禍の五輪で選手は危険にさらされ、思うにまかせない環境で練習し、国民だけでなく世界からも祝福されない大会の出場を強いられています。

 「胸を張って出場していいのだろうか」。そんな重苦しく複雑な思いを選手に強いている元凶が、政府の政治的な決定です。

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 五輪の根本原則には「人間の尊厳保持」「平和な社会を推進する」があります。根底にあるのは「人の命の大切さ」であるはずです。しかし、世界で多くの命が脅かされる中での開催は、理念の喪失を意味します。

 それは「すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する」(世界人権宣言第3条)など、人類が築いてきた世界の社会秩序の到達点をも掘り崩す事態です。

 理念も大義もない五輪は、やめる以外にありません。その強行は「五輪の理想が葬られた大会」として永遠に刻まれるだけです。


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