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2021年5月24日(月)

ワクチン接種大幅遅れと混乱 課題は

 日本の新型コロナウイルス対策のワクチン接種は異常なまでの遅れです。人口100人あたりの接種回数は世界の国・地域で130位。東京五輪を目前に控える中、世界からの遅れに焦る菅義偉首相は、「高齢者接種を7月末完了」「1日100万回接種」など現場の実態を無視した目標を強制し、自治体や医療機関に混乱を招いています。(政治部コロナ取材班)


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(写真)五輪の事前キャンプ地である松戸運動公園の体育館は、10日から新型コロナウイルスのワクチン接種会場になっています=千葉県松戸市

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(写真)河野太郎ワクチン担当相(左)に要請する志位和夫委員長(中央)、穀田恵二国対委員長=20日、国会内

押しつけられて“前倒し”

 「7月末をめどに高齢者への2回接種を終えたい」―。菅首相は、6月末までに約1億回分の新型コロナウイルスワクチンの供給が可能になったとして、接種を加速させる考えを4月23日の会見で表明しました。これを受け、総務省は同27日に地方支援本部を立ち上げ、全国の市区町村に政府目標を実現するよう働きかけを強めています。

 突如掲げられた政府目標に対して全国の自治体は、戸惑いと混乱を見せています。国が現場の実情を把握せず、上から無理やり期間の前倒しを押しつけたからです。

 日本共産党の調査によると都内のある区では、「1回目の接種予約が8月、2回目は9月まで空きがなかった」「1回目の予約が9月」と総務省の調査とは異なる事例が報告されています。

「人手足りぬ」

 全国知事会が実施したアンケートでは、7月末完了の課題として、全都道府県が「医療従事者の不足」を挙げました。さらに、多くの自治体が「通常診療への支障」も懸念。「自治体のマンパワーの不足」についても半数以上が課題としました。

 自治体職員は、コロナ感染拡大への対応で多忙を極める中、国から当初の計画よりも前倒しするよう求められ、さらに業務量が増大しています。

 岐阜県各務原(かかみがはら)市ではワクチン接種対策室の職員の半数以上が、4月の時間外労働が過労死ラインとされる月80時間超に。最長143時間にのぼった職員もいました。

 同市は当初、高齢者への接種を8月末に完了する計画だったといいます。担当者は、「接種を前倒しするためには、医療従事者を集める必要がある。国は財源支援をしてくれてはいるが、人手の確保は自治体任せ。お金だけではなく、人の支援も考えてほしい」と訴えます。

 四国地方のある看護師は、電話対応に疲弊し、人が足りないためワクチンが供給されても接種できない状況が生まれていると指摘します。こうした状況のなかでは、安全面にも問題があるとして、「全国の自治体が国へ忖度(そんたく)して効率ばかりを求めることはあってはならない」と語ります。

遅い日程提示

 国内ではいまだに、ワクチンの供給量がどれほどになるのか、ワクチンがいつ現場に到着するかも不安定です。

 東京都中野区には17日の夜、「6月中旬のワクチン供給が半数ほどに減る可能性がある」との連絡が都の担当者からありました。ただし、翌日には「希望通りの数を配布できる」と訂正のメールが来たといいます。わずか1日で連絡が覆り現場は振り回されています。

 知事会では「ワクチンの配送日程・配送量の提示時期が遅い」と不安視する声が広がっています。各自治体はワクチンの到着日が決まって初めて、医療従事者の配置を行えます。早い時期に到着日を伝えることが必要です。日本共産党は20日、「新型コロナ感染症対策に関する緊急要請」で「供給スケジュール、配分量等について確定日付で速やかに示す」ことを求めました。河野太郎ワクチン担当相は現状を認め、改善にむけて努力すると答えました。

 こうした実態からも、戦略なき計画であることが浮き彫りとなっています。

自公の医療弱体化のつけ

 ワクチン接種が遅れている大本には、自公政権による長年の社会保障改悪や自治体職員減らしがあります。

 なかでも小泉政権が2002~06年度にかけ高齢化などによる社会保障費の自然増分を3000億~2200億円削減する路線を進めたことで、日本全体で医療体制が弱体化。安倍前政権もこの自然増削減路線を踏襲するとともに、「地域医療構想」の名で病床削減路線を地方に押し付けてきました。

 日本の医師数が経済協力開発機構(OECD)のなかでも最低水準に落ち込むなど、ワクチン接種体制にも深刻な影響を与えています。

 18年には突如424の公的・公立病院を名指しして再編・統合を迫るリストを発表。コロナ危機のなかでコロナ患者を積極的に受け入れるなど、重要性が改めて明らかになっているにもかかわらず、菅政権は再編・統合押し付けをやめようとしていません。

 もともと余裕がなくなっていたところにコロナが直撃。コロナ対策で人件費や物品費が増える一方、病院での感染を恐れた受診控えで収入は減少。自公政権は支援を“コロナ対応病院”に限定し、医療機関の減収補てんに背を向けたことで、病院経営に追い打ちをかけてきました。日本医療労働組合連合会(医労連)の調査では加盟組合がある医療機関の半数以上で一時金が削減されています。

 日本看護協会の調査では、コロナ患者を受け入れた医療機関の21・3%で看護師の離職があったことが明らかになっています。しかも、同調査は感染第1波が終わった昨年9月時点のもの。現在はさらに離職が進んでいる可能性があります。

 それにもかかわらず、菅政権は21日、いっそうの病床削減と医師養成数抑制につながる病床削減推進法を成立させました。

 地方自治体がワクチン接種を進めるために新規や臨時で職員を雇いたいと思っても、国のワクチン接種体制確保事業費国庫補助金は交付されないなど、国の制度が使いづらい問題もあります。

大規模検査・十分な補償と一体に接種推進を

 ワクチン接種による感染防止の社会的効果が得られるまでには一定の時間がかかります。そのうえ、日本の接種は大幅に遅れています。感染を封じ込めるには、大規模検査、十分な補償と生活支援と一体でワクチン接種を進めることが必要です。

 感染力が強い変異株が猛威をふるう中で、命を守り、医療崩壊を防ぐために社会的検査の拡充が必要です。高齢者施設・医療機関・障害福祉施設の職員・入所者への頻回検査を最低週1回に拡充し、保育園、学校などにも対象を広げるべきです。無症状者に焦点をあてたモニタリング検査を1日に10万件に引き上げることも求められます。

 緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の影響で、すべての中小企業、個人事業者が打撃をこうむっています。2度目の持続化給付金の支給や「月次支援金」の増額と迅速化、文化・芸術団体への使途を問わない特別給付金の抜本的強化などが求められます。野党が共同で提案している一律10万円の給付を直ちに実施するなど生活支援を強化すべきです。

 十分な補償は、経済対策・生活防衛であるとともに、感染拡大を抑止するうえでも必要不可欠です。


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