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2021年4月18日(日)

日米首脳会談

軍事も経済も「対中国」

これで「世界を主導」か

 16日午後(日本時間17日未明)にワシントンで行われた菅義偉首相とバイデン大統領との日米首脳会談は、「対中国」を念頭に軍事、経済両面で日米同盟強化を前面に掲げました。一方、気候変動対策では課題が山積し、東京五輪をめぐってはコロナ禍のもとでの開催そのものの行き詰まりがあらわになりました。

安全保障

軍拡・基地強化 誓う

 菅首相は日米首脳会談後、バイデン大統領との共同記者会見で「地域の安全保障環境を踏まえ、日米同盟の抑止力・対処力を強化していく必要がある。私から日本の防衛力強化への決意を述べた」と胸を張り、軍拡を宣言しました。

 共同声明は、「対中国」を打ち出して日本の軍拡と日米一体化、基地強化を確認した3月の日米外交・軍事担当閣僚会合(2プラス2)の共同発表を改めて全面的に支持。日米同盟の一層の強化と日本の大軍拡路線を約束しました。

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設を、米軍普天間基地(同県宜野湾市)の継続的な使用を回避するための「唯一の解決策」だと強調。菅首相は「着実に推進する」と改めて断言しました。しかし、普天間基地が返還合意から25年が経過してもなお居座り続けているのは、民意に背く辺野古新基地建設に固執してきたからです。

 新基地をめぐっては、米議会や米シンクタンクなどからも、沖縄県民の民意に加え、軟弱地盤などの問題で、完成を困難視する見方が広がっています。

 米空母艦載機離着陸訓練(FCLP)移転に伴う鹿児島県西之表市の馬毛島への基地建設も明記しましたが、1月の西之表市長選で「基地は容認できない」と訴えた八板俊輔氏が再選。八板市長は12日に防衛省を訪れ、改めて反対を伝えています。

 また、共同声明は「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日本防衛」を表明。米国の「核の傘」を含む「拡大抑止」にしがみつき、発効した核兵器禁止条約への参加を求める国際世論に背を向けています。

 共同声明は、思いやり予算の特別協定の「合意の妥結を決意した」とし、日本の異常な多額の負担継続も記しました。

 重大なのは「この声明は、今後の日米同盟の羅針盤となるもの」(菅首相)としていることです。辺野古や馬毛島、米海兵隊のグアム移転に伴う基地建設の莫大(ばくだい)な費用は日本負担です。サイバーや宇宙といった新領域での軍拡もうたわれています。軍事費はすでに7年連続で過去最高を上回っていますが、今後も際限のない軍拡と基地強化、費用負担が押し付けられることになります。国民に負担を強い、地域に「軍事対軍事」の悪循環を押し付ける軍拡は許されません。

覇権主義

国際法の視点は欠落

 日米両首脳の共同声明は、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記しました。日米の合意文書で半世紀ぶりに、しかも同盟強化の文脈で台湾に言及した背景には、米中両国の緊張の高まりの中、「台湾有事」への動員を含む日本の軍事的役割への期待を示すもので、重大です。

 中国は、台湾を領土・主権に関する「核心的利益」に位置付け、「譲れない一線」(中国・王毅外相)としています。中国軍機が台湾の防空識別圏への侵入を繰り返していることは、台湾侵攻を想定した「予行演習」だという専門家の見方もあります。

 米国は、台湾への武器売却や高官の往来を進め、台湾海峡に艦艇を派遣。「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」(米インド太平洋軍司令官)などと危機感をあおっています。

 「台湾有事」への懸念が高まるなか、米国は中国に対抗するため、同盟国との連携強化を進めています。バイデン大統領が、初めての対面での首脳会談相手に菅首相を選んだのも、「対中戦略」の最前線に位置付ける日本を対中国の作戦に組み込む狙いのあらわれとみられます。

 台湾問題の解決は、台湾住民の民意を尊重すべきであり、平和的話し合いで行われるべきです。

 共同声明は、東シナ海・南シナ海などでの中国の軍事行動に「反対」を表明し、日米同盟の結束を誇示。また、「日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている」としており、日米共同で事態に対応する姿勢を示しています。

 ただ、共同声明には中国の覇権主義的行動への国際法に基づく批判が欠落しています。香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害にも「深刻な懸念を共有する」としているだけで、国際問題だという批判がありません。

 中国に対しては、国際法に基づいて誤りを正面から批判し、国連憲章や国際法の順守を迫り、国際世論で包囲していくことが求められます。

 (柳沢哲哉)

経済

迫られる戦略再構築

図

 経済分野でのバイデン政権の戦略は、同盟国の力を引き出し、米国をもしのぐ経済大国になろうとしている中国を打ち負かすことです。共同会見でもバイデン大統領は「日米両国はイノベーションに深く投資している。これには競争力の維持と強化につながる技術を守るための投資も含まれる。こうした技術は専制主義ではなく、民主主義の規範によって管理されている」と強調しました。「専制主義」国として念頭にあるのは中国です。

 バイデン大統領が会見で具体的に触れたのは、高速大容量規格5Gネットワークの安全性と信頼性の推進、半導体など重要分野のサプライチェーン(供給網)の強化、さらに人工知能(AI)、ゲノム(全遺伝情報)、量子コンピューターの分野での共同研究の推進でした。これらの最先端技術は、いずれも米国の軍事的優位性を確保するために不可欠なもの。

 半導体市場調査企業の「IC Insights」によると、2019年の北米の半導体生産能力の世界に占める割合は12・8%にすぎません。一方、北米を抜いて13・9%を占める中国は、2022年には、日本、韓国を抜き世界2位になると見込まれています。

 米政権は、最先端技術分野に「安全保障」の網をかぶせ、中国製品の使用を禁止し、締め出しを進めています。首脳会談では、米国による対中国戦略に日本をより深く組み込むために、日米両国で「世界を主導する」と強調しました。

 ところが、日本の輸出入とも最大の相手国は中国です。また、日本の大企業は、低賃金を求めて中国に進出し、生産拠点としてサプライチェーンを構築してきました。対中競争を激化させているバイデン政権の下で日本企業は、中国戦略の再構築を迫られることになります。

 (金子豊弘)

気候変動

「脱石炭」言及せず

 気候変動対策で菅首相とバイデン米大統領は「日米気候パートナーシップ」を立ち上げ、温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにし、その目標と整合的な形で30年までに「確固たる気候行動を取る」ことに合意しました。

 グテレス国連事務総長は、各国が現在掲げる削減目標は、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の目標を達成し気温上昇を1・5度に抑えるのに必要な30年までの45%の排出削減(2010年比)には「道のりは長い」と指摘。各国が削減目標を引き上げることは責務です。とくに世界で5番目に排出量の多い日本が、極めて低い現在の26%削減目標(13年比)を引き上げることは喫緊の課題です。

 しかし、今回の共同声明や「日米気候パートナーシップ」の文書には「脱炭素」とはあるものの、温室効果ガスを多く排出する石炭火力をどうするか、「脱石炭」とは明記されていません。先のグテレス氏が3月、日米も入る経済協力開発機構(OECD)加盟国に対し、2030年までに「石炭の使用を段階的に廃止すること」を求め、石炭火力からの撤退こそ「目標達成の重要なステップ」と訴えていることに全く応えていません。

 共同声明で、気候危機とたたかうための「世界の取り組みを主導」といい、気候パートナー文書では「国際社会の気候行動を主導していく」とありますが、口先だけに終わる可能性があります。実際、菅政権が昨年10月に「2050年温室効果ガス実質ゼロ」を宣言する一方でやろうとしているのは、老朽原発をはじめ原発の「最大限活用」であり、石炭火力の新増設を国内外で今でも進めていることです。脱石炭へ進む世界を主導できるはずがありません。

 また「パートナーシップ」の文書で二国間協力のイノベーションとして「革新原子力」を挙げ、新型炉の開発を進めようというのです。原子力業界を延命させるねらいがあるだけでなく、国民の多数が原発ゼロを求めているのに、真っ向から反するものです。

 (三木利博)

東京五輪

開催準備「無責任」 米メディアから

 日米首脳会談を受けて発表された共同声明では、「バイデン大統領が今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する」と明記されました。さらに菅義偉首相は共同記者会見の冒頭発言で、「世界の団結の象徴として東京五輪・パラリンピックの開催を実現する決意を伝え、バイデン大統領から決意に対する支持を改めて表明いただいた」と述べました。

 新型コロナウイルスの変異株の感染拡大など「第4波」が深刻な状況となり、与党からも「五輪中止」発言が出るなかで、「開催ありき」に固執する異常な姿勢です。

 米メディアから「公衆衛生の観点から日本は五輪の準備ができていない段階で進めるのは無責任ではないか」との質問が出されました。東京五輪をめぐる海外世論を反映したものです。この質問に対して、菅・バイデン両氏は回答を避けました。コロナ禍のもとでの五輪開催が可能だとする根拠も示せず、深刻な矛盾に陥っています。

 さらに「大統領から米国の選手団派遣について具体的な約束や前向きな意向は示されたのか」との日本メディアの質問に、菅首相は冒頭発言での五輪への言及を繰り返した上で「引き続き今年の夏の東京大会開催を実現すべく準備を進める」と述べ、米国選手団については明言を避けました。

 菅首相は2月の主要7カ国(G7)テレビ会議など国内外で、五輪開催を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しにする」とのフレーズを繰り返していましたが、今回は用いませんでした。

 (斎藤和紀)


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