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2021年3月9日(火)

どうみるデジタル法案

元行政機関等個人情報保護法制研究会の委員 三宅弘弁護士に聞く(下)

権力監視に強い権限を

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(写真)国会議事堂に向け、「監視社会は絶対反対」とコールする参加者ら=昨年6月8日、衆院第2議員会館前

 人は監視されていると感じると、自由に行動し、表現することもできなくなります。個人情報の保護は、知られたくないプライバシーを守るだけではありません。情報を知られることで弱みを握られ、表現の自由を奪われてしまうこともあります。

表現の自由侵す

 事実、加計学園問題で「総理のご意向」が問題になったとき、警察庁警備局長も務めた杉田和博官房副長官が前川喜平元文部科学省事務次官を首相官邸に呼び出し、特定の個人情報を示して脅し、黙らせようとしていました。

 憲法13条に基づき保障されているプライバシー権は民主主義の基盤で、表現の自由をも守る前提条件になっているのです。

 秘密保護法や共謀罪法ができ、監視カメラや顔認証技術と結びついて監視社会化が進む中で、今回の法案が出てきた点を警戒しなければなりません。

 デジタル化で個人情報を集約することによる便利さだけに走れば、プライバシー保護と表現の自由という民主主義国家の基盤を揺るがしかねません。デジタル化が進む中国のように四六時中、市民が監視される社会、戦前の治安維持法下の日本のような「壁に耳あり障子に目あり」の国にしていいのかが、問われています。

 この点で大事なのは自己情報をコントロールする権利です。個人情報を出す、出さないを本人が決定し、それを自分がチェックできる権利です。

 そのために必要なのが、権力監視の仕組みの強化です。その点で、個人情報保護委員会の権限をどこまで強くできるかが問われています。

 個人情報保護法の一本化で、これまで民間部門だけを監督してきた個人情報保護委員会が行政機関、独立行政法人もチェックすることになります。

 民間の事業者には立ち入り調査をして個人データの帳簿のチェックもできますが、行政機関に対しては曖昧で、資料提出要求、実地調査、指導・助言・勧告だけでは、権限が弱すぎます。しかも同委員会の委員は9人、そのうち個人情報保護法の専門家は1人で、体制としても極めて不十分です。

警察をチェック

 ヨーロッパやカナダには、行政機関や警察をチェックする強い権限をもった機関があります。

 たとえば、ドイツでは憲法改定を求める右翼過激派をチェックするために憲法擁護庁と連邦警察、州警察がそれぞれに個人情報データベースをもっています。そこにデータ保護監察官が2年に1回立ち入り調査でデータベースをチェックし、“この人は単なる市民運動家であって右翼過激派ではないから削除せよ”というようなことをやっています。

 ヨーロッパ諸国では民間部門は二の次で、行政機関をどうチェックするのかということが基本になっています。

 行政部門に立ち入り検査してデータベースの中をチェックできるような強い権限をもつようにしないと本物ではありません。ドイツに視察に行ったとき、連邦憲法裁判所の裁判官から「日本は何て野蛮な国」と言われました。日本はそこをもっと強化しなければならないと思います。


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