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2020年9月20日(日)

要介護5まで保険給付外し

制度改変の前提に疑い

 要支援者向けの「介護予防・日常生活支援総合事業」の対象を要介護5の人まで拡大し、要介護者の介護保険給付外しを可能にする―。日本共産党の小池晃書記局長の厚生労働省からの聞き取り(10日)で明らかになった、「省令改正」による介護保険制度改変に衝撃が広がっています。厚労省は23日まで意見公募にかけた後、実行に移す計画ですが、同省が制度改変の根拠にしていた「自治体の要望」が実際は存在しない疑いが浮上しています。

 要介護者まで総合事業の対象にする方向を厚労省が初めて示したのは、昨年10月の社会保障審議会介護保険部会です。現在総合事業を利用している要支援者が、状態が低下して要介護者になると総合事業の本来の対象から外れるので、対象の要件見直しを求める要望が自治体から上がっているという資料を突然提出したのです。

 唐突な資料提出に部会では「市町村の多くが希望しているように受けとめられかねない資料だ」(認知症の人と家族の会の花俣ふみ代常任理事)と疑念の声があがりました。ただこの時点では、総合事業を利用していた要支援者が要介護に移ったケースだけが問題になっていました。

 ところが小池氏の聞き取りに対して、厚労省は「対象は要介護1~5の全体」と明言。全ての要介護者を、本人の希望と自治体の判断で21年度から総合事業の対象にできることを明らかにしたのです。

 厚労省が、自治体から要望が出ているという最大の根拠としたのが、東京都世田谷区が同省の別の検討会に提出した資料です。同資料には、要支援から要介護へ移行する人が増えるなか、総合事業の利用者の過半数を要支援者などとする規定が課題になっていると書かれています。

 本紙の取材に同区の担当者は「資料は要支援から要介護に移った場合の継続したサービス利用について課題を示したもので、そもそも要望ではない」と明言。要介護全体を総合事業の対象にするよう要望したことも「ない」と語りました。

矛盾いっそう深める

 要支援者向けの「介護予防・日常生活支援総合事業」は市町村の裁量で実施され、提供されるサービスの種類や量もそれぞれの自治体任せです。サービス単価は介護保険給付より低く設定され、サービスの担い手もボランティアなど無資格者でも可能です。予算にも国から上限がかけられています。需要が見通しを上回り予算が足りなくなれば、サービスを低下させるか利用者の負担を増やすしかありません。

 今回の見直しで総合事業の予算の上限は変わりません。予算を増やさずに要介護者まで受け入れるようになれば、総合事業の財政がいっそう悪化するのは明らかです。

 一方、介護保険給付では財政事情にかかわらず決まったサービスが保障されます。介護保険財政が赤字になったからといって利用者のサービスが打ち切られることはありません。

 要支援者も以前は要介護者と同じように介護保険給付を受けることができました。安倍政権は2014年の介護保険法改悪で、要支援の訪問・通所介護を保険給付から総合事業へ移行。当初宣伝されたボランティアなどによる多様なサービスの提供は進まず、報酬単価が低いため事業者の撤退も相次いでいます。介護保険料を毎月払ってもサービスを受けられない状況が各地で広がっています。

 厚労省は、要介護者の総合事業の利用は本人の希望が前提だといいます。しかし、総合事業では本人の同意を強引に取り付け、サービスを後退させる事態が各地で起きています。(北野ひろみ、佐久間亮)

無資格者に置き換え狙う

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 全日本民医連・林泰則事務局次長の話 要介護1~5すべてで総合事業を使えるようにする一番の狙いは、要介護者の日常生活を支援する訪問介護の「生活援助」を、ヘルパーや介護福祉士といった専門職から、ボランティアなど無資格者に置き換えることにあると思います。安上がりな無資格者に移すことで、社会保障費を抑制する考えです。

 財務省の財政制度等審議会(会長・榊原定征経団連元会長)は昨年、要介護1・2の訪問・通所介護について総合事業へ移行させるよう求める建議出しています。そこでも強調しているのは生活援助です。

 背景には生活援助に専門性は必要ないという、間違った認識があります。人と人とのかかわりという介護の本質を理解せず、介護を家事の延長程度にしか見ていないのです。

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 総合事業は、保険給付と同水準の「従前相当」サービスや、基準を緩和して事業者が実施する「A型」サービス、ボランティアなど地域住民主体の「B型」サービスなどに分かれています。

 しかし、ボランティアなどの確保が進まないので、多くの自治体が「従前相当」を基本にしています。「A型」サービスでは、低い単価で介護事業者がサービスを提供せざるを得ず、経営を圧迫しています。いまでも担い手が確保できていないのに、要介護者まで対象を拡大すれば担い手不足はいっそう深刻になります。

 総合事業の対象を広げるのではなく、むしろ「従前相当」サービスについては介護保険給付に戻すことが必要だと思います。


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