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2020年8月29日(土)

モザンビークODA事業中止

日本国際ボランティアセンター 渡辺直子さん語る(下)

世界的連帯の勝利

写真

(写真)モザンビークの小農から聞き取りをする渡辺直子さん(左端)=2015年8月(渡辺さん提供)

 私がアフリカで最初に関わった南アフリカの農民たちは当初、長く続いたアパルトヘイト(人種隔離)によって農業といえば白人農場しか知らず、自分たちの農業に自信が持てない状態でした。アパルトヘイト後の歴史的経過から、援助も与えられるものだと考えていました。

小農の誇り

 ところがモザンビークの小農は「小農は地球の守護者」と主張していました。自らの農業に誇りを持ち、援助をするならまずは自分たちの声を聞くべきだと訴えていました。感銘を受け、多くのことを学びました。

 彼らは、自分たちの生活と政治が密接に関わっていることを知っています。長い独立闘争の経験があり、国際農民組織ビア・カンペシーナの一員として世界の運動に参加し、資本による土地収奪とたたかうアフリカの他国の運動や、同じポルトガル語圏のブラジルの運動ともつながっています。

 世界の市民と連帯し、問題がどこから来るのかを知っているからこそ、社会、世界のあり方そのものを問う広い視野を持つ運動ができたのだと思います。

 そして、彼らのように命がけで開発や抑圧に「ノー」と言い続けている人々がいることで、世界はましな状態で保たれています。

 社会のあり方を問うたたかいは女性や障害者など社会的に弱い立場に置かれたあらゆる人々のたたかいにつながっています。小農は、自然の恵みを生かした農業によって世界の食料の8割を生みだし、土地に根差した多様でおいしい作物、そして文化・風土をつくりだしています。

 遠いアフリカのたたかいですが、誰にとっても居心地のいい社会のあり方を求める、地球環境を守るという点で、日本の私たちのくらしともつながっています。

弱者の立場

 プロサバンナ事業の失敗について、日本は真剣に反省し教訓を得るべきです。

 なにより援助にかかわる職員一人ひとりが高い人権意識を身に着けることです。日本の国際協力機構(JICA)は、小農から人権侵害が起きていると訴えられても、モザンビーク政府の言い分をうのみにして、訴えの事実をないことにしてきました。弱者の立場に立つ感覚が決定的に欠けています。事業に問題があると分かったら止められる仕組みの整備も必要です。

 そして、上から与えるという発想をやめることです。自分の方が知っているとか、相手を変えなければいけない対象だなどと思わないことです。

 JICAは小農を貧しい存在と見ています。でも、彼らは自分の手の中で生活をコントロールできる強さを持っています。例えば新型コロナウイルスの流行で小農の現金収入は減っていますが、耕す土地があるため食べることには困っていません。こうした強さは経済危機やサイクロンなど自然災害の際にも見られました。

 一方、資源収奪型の農業開発は温室効果ガスを大量に排出し、土地収奪によって耕作する土地を持たない農民を大量に生みだします。雇われて働くようになった農民は、経済危機で真っ先にクビを切られます。

 必要なのは、上からこういう社会がいいと決めつけることではなく、現地の人々が自らの可能性に気付くためのサポートです。相手を世の中をよくする主体として尊重し、ともに学び、ともに考える姿勢がなければいいものはつくれません。


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