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2020年8月27日(木)

主張

日本船の重油流出

生態系の保全に責任を果たせ

 インド洋の島国モーリシャスの沖合で日本企業の大型貨物船が座礁した事故が発生してから1カ月が過ぎました。船から流出した重油は同国沿岸のマングローブ林などに漂着し、その除去作業が難航しています。サンゴにも影響が広がっています。深刻な環境汚染を引き起こしている事態に世界から懸念の声が上がっています。貴重な自然環境の保全のため、早急な対策と支援の強化が必要です。

自然の宝庫に大きな打撃

 事故を起こした船は長鋪(ながしき)汽船(岡山県)が所有し、商船三井がチャーターしていました。中国からブラジルに向かう途中に通常ルートから外れ7月25日、モーリシャス島沖のサンゴ礁で座礁しました。浸水は徐々に始まり、8月6日に重油流出が確認されました。流出量は1000トン以上です。

 船内に残った重油(約3000トン)や流れ出た重油のうち約460トンは回収しましたが、島の東南部沿岸約30キロにわたり重油は広がったと報じられています。貝や小魚が生息し、水鳥も飛来するなど生物の宝庫となっているマングローブ林にも流れ込みました。国際的に貴重な湿地として保護を定めたラムサール条約の登録地も浮遊する油に脅かされています。

 モーリシャス政府は重油流出の確認直後に環境上の緊急事態を宣言し、環境相は「わが国は未曽有の環境事態に直面している」と訴え、技術面の援助や専門家による国際的な支援を呼びかけました。

 現地では、希少動植物を安全な場所に移すなどしていますが、根が複雑に入り組むマングローブ林での回収は困難を極めています。手作業で進めるしかない上、泥状の地域も多く、足を踏み入れると油が地中に入り込む恐れがあり、工夫と技術が必要になっています。環境の回復には、かなりの年数を要するとも指摘されています。被害を抑えるために、国際的な英知と力を集めることが重要です。

 座礁後から放置されている船体がサンゴを削り続けている可能性も確認されました。二つに割れた船体の前方部分は現場から沖合にえい航され、沈められました。しかし、残された後方部分が波や風で揺り動かされサンゴを破壊しているとみられます。船体後方の早期撤去は切実な課題です。

 豊かな自然に恵まれた人口127万人のモーリシャスは観光が経済の柱です。重油汚染が、すでに新型コロナウイルスで打撃を受けている観光業に追い打ちをかける危険を高めています。漁業へのダメージも避けられません。

 環境でも経済でも重大な被害を受けたモーリシャスの人たちが苦しむような状況にしてはなりません。条約などに基づく現在の補償の枠組みで対応ができるのか。検討と議論が必要です。再発防止のためには、事故原因の徹底解明は欠かせません。

日本は当事国として役割

 日本政府は、国際緊急援助隊を派遣しました。しかし、フランス政府が早くから援助を開始したことなどと比べ、遅い動きでした。支援の体制も不十分です。人的物的支援に力を入れるべきです。気候変動問題で「石炭中毒」(国連事務総長)と非難されている日本は、今回の重油汚染で一層厳しい立場に立たされかねません。事故を起こした企業を持つ当事国として、責任と役割が問われています。


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