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2020年6月7日(日)

きょうの潮流

 娘の写真を撮ることが何よりの楽しみでした。入学式や卒業式、家族で旅行に出かけたとき、なにげない日常のひとコマ…。レンズ越しのいとしい表情は、忘れかけた思い出を何度もよみがえらせました▼ほとんど叱ったことがない甘い父親の前から突然娘が姿を消したのは1977年の11月15日でした。当時、新潟の中学に通っていた13歳の横田めぐみさんは下校中、自宅近くで北朝鮮に拉致されました▼妻の早紀江さんとともに名を叫び、懐中電灯を手に必死に探し回った滋さん。毎朝、職場に向かう前に海岸に出ては手がかりを追い求めました。暗転の前日は自身の45歳の誕生日。「お父さん、これからはオシャレにも気をつけてね」。そう言って贈られたクシを肌身離さず持ち歩いていました▼拉致被害者を救出する運動の先頭に立ってきた横田滋さんが亡くなりました。87歳。家族会の代表として早紀江さんと二人三脚ですべての都道府県をかけめぐり、署名や1400回をこえる講演を重ねて拉致の非道さを訴えてきました▼面影を探し、幻を追うような歳月。北朝鮮からめぐみさんの死亡を伝えられ、人目もはばからず嗚咽(おえつ)したことも。ころころと態度を変え、何年も事態を動かせない日本政府の怠慢に、いつもの穏やかさが一変したことも▼残された拉致被害者の家族はみな高齢です。娘を救うために人生の半分近くをささげた滋さん。写真にある娘の顔をなでては、最期まで望みを持ち続けていました。「めぐみちゃんに会いたい」


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