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2020年2月28日(金)

検察官の定年延長問題

立法権への重大な侵害

森法相の不信任要求は当然

 検察官の定年延長問題をめぐり安倍政権は、検察官に国家公務員法の適用があるという「法解釈の変更」を持ち出し、黒川弘務東京高検検事長の定年延長決定を正当化しました。「検察官には定年延長は適用されない」という立法府の意思を政府の一存で覆す立法権侵害です。三権分立、法の支配の破壊に加担し、安倍首相の答弁に合わせるためにめちゃくちゃなつじつま合わせの答弁に終始する森雅子法相の責任は極めて重大です。野党が一致して不信任案を提出したのは当然です。

図

つじつま合わせ

 政府は、黒川氏の当初の定年退官日2月7日の1週間前の1月31日、同氏の定年延長を閣議決定しました。

 これに対して、2月10日の衆院予算委員会で野党議員が、1981年の国家公務員法改正の議論で政府が検察官に「定年制は適用されない」と答弁していることを指摘。人事院も12日の同委で「同じ解釈を引き継いでいる」と述べていました。

 ところが安倍首相は13日衆院本会議で「検察官の勤務延長は国家公務員法の規定が適用される」と答弁。人事院は19日になって「(12日の答弁は)言い間違えた」と答弁を撤回。「言い間違えた」とし、すでに解釈変更していたと、首相の答弁に合わせつじつま合わせの答弁修正を行いました。

 さらに森法相は19日、1月22~24日に法務省が国家公務員法を所管する人事院と協議し「解釈変更に異論なし」との回答を得たと述べました。

 すると翌20日に法務省は、法務省内の解釈変更についての日付のない協議文書を衆院予算委理事会に提出。森氏は20日に「決裁はとった」と述べ、法務省は21日の同委理事会で「口頭決裁をとった。文書はない」などと述べました。

 国会で明言した法解釈変更を「口頭決裁」で済ましたというあり得ない「説明」に野党は猛抗議。森氏と政権は、いまだに「口頭決裁」を強弁し続けています。しかし、法務省としての正式の意思決定がないまま、首相と政権の独断で解釈変更が強行されたとの疑いは強まるばかりです。

背景に「桜」疑惑

 安倍首相がここまで、黒川弘務東京高検検事長の定年延長に固執する理由は、首相主催の「桜を見る会」私物化疑惑での検察の追及を恐れているからではないのか―。こうした構図が、日本共産党の藤野保史衆院議員の追及(26日の衆院予算委員会)で浮かびあがりました。

 法務省が法解釈の変更を内閣法制局に相談したのは1月17日です。その直前の14日に、安倍首相は弁護士などから背任罪で刑事告発を受けています。

 告発があれば、捜査が行われる可能性があります。藤野氏は「検察には強制捜査権があり、他方、(前夜祭の会場の)法人税等の対応のためにホテルには、明細書などについて7年間の保存義務がある。検察がホテルなどから明細書を入手することは何ら難しくない」と指摘します。

 検察のトップは検事総長です。安倍政権は黒川氏を次期検事総長にしようとしているといわれています。安倍政権の異常な検察人事への介入は、首相自身のためではないかと疑われます。

解釈変更の異常な論理

政治的中立性を無視

 公務員に対する定年延長を導入した1981年の法改正時、政府は国会答弁で、検察官は「適用除外」としていました。この間、「勤務の延長」を明示して検察官に適用除外とする政府資料(想定問答)も示され、森法相は、“直接的に細かく”否定した資料はないとしてきた自身の答弁との矛盾を指摘されています。

 そもそも検察庁法がつくられた1947年にも定年延長は設けられておらず、今回の「解釈変更」は、2度にわたり明確に示された立法者の意思を否定するものです。行政権が法律をねじ曲げる、まさに立法権の侵害です。

 重大なのは、検察官が一般公務員と異なる扱いを受ける実質的理由をまったく無視していることです。

 検察庁法は、戦後、日本国憲法が詳細な刑事手続き上の人権保障規定を設けるもとで、その趣旨を実現するために刑事訴訟法などとともにつくられました。検察官の任免や任務の延長に内閣が関与すれば、政治的中立性を害する恐れがあるため、検察官に定年延長の適用はないとされたのです。

 さらに安倍政権は、26日の衆院予算委員会の理事会に、法務省刑事局の作成とされる驚くべきメモを提出。今から130年前、明治23年(1890年)の「裁判所構成法」の改正審議で、検察官の定年制度について「後進の為(ため)に進路を開いて新進の者をして其(そ)の地位を進めして、以(もっ)て司法事務の改善を図る」などとされていたとし、現在の国家公務員法の趣旨と「差異はない」と強弁するものでした。検察官に定年延長制度の「適用は排除されておらず」というのです。

 これは、日本国憲法のもとで検察組織・行政の原理が根本的に転換したことを無視した暴論です。日本国憲法のもとで検察官の政治的中立性が重視されているのに対し、定年延長に内閣が関与する問題について、何の説明もありません。

 大日本帝国憲法のもとでは、天皇が「統治権を総攬(そうらん)する」とされ、司法権は「天皇の名において」裁判所が行使する(57条1項)とされていました。現在のような裁判所・裁判官の独立がなかったときの法律を持ち出しても意味はありません。まったく説明の手がかりを得られない「破綻」を証明するだけです。


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