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2019年2月11日(月)

原発の火山対策 泥縄

巨大噴火判断基準 具体化できず

専門家「稼働に正当性ない」

 原子力規制委員会は、安全研究の一環として、カルデラ(火山活動で生じた大きなくぼ地)に関する知見を蓄積するための研究を実施しようとしています。原発に深刻な影響を及ぼす巨大噴火のメカニズムを把握する調査が少ないとして、来年度から5年かけて、鹿児島県の姶良(あいら)カルデラや鬼界カルデラ、青森県の十和田カルデラ、北海道の洞爺カルデラなどを対象とした調査研究に着手します。原発の火山影響の審査のあり方が問われています。(松沼環)


 姶良カルデラでは、海底の地殻変動をとらえるための調査や、カルデラ内に地震計を設置。また、カルデラ近くのボーリング調査などを計画しています。

 日本で原発に火山対策が義務づけられたのは、東京電力福島第1原発事故後です。

 規制委がまとめた新規制基準の「火山影響評価ガイド」は、原発の周囲160キロ圏内の火山の影響を評価することを義務づけました。評価の第1段階では、原発の運用期間中に設計による対応が不可能な火砕流や溶岩流など影響を及ぼす可能性が十分小さいことを示すよう事業者に求めています。それができなければ立地不適となります。

火砕流到達

 特に影響の範囲が広いのが、巨大噴火に伴う火砕流。日本で過去最大の阿蘇山の噴火(約9万年前)では、約160キロメートルの範囲に火砕流の被害が及びました。火山ガイドが、160キロ圏内の火山の活動性などを評価することにしている理由になっています。

 カルデラを形成するような巨大噴火は、日本では1万年に1回程度発生。九州電力川内原発(鹿児島県)や同玄海原発(佐賀県)、四国電力伊方原発(愛媛県)、北海道電力泊原発(北海道)、日本原燃六ケ所再処理工場(青森県)などの敷地に過去、火砕流が到達したと考えられています。

 2015年に再稼働した川内原発は、半径160キロ圏内に阿蘇山のほか、活発な活動を続ける桜島を含む姶良カルデラ、約7300年前の噴火で九州南部の縄文文化を消失させた鬼界カルデラなど複数のカルデラが存在します。

 九電は、これらの火山が、川内原発の運用期間に巨大噴火を起こす可能性は十分小さく、また、巨大噴火の兆候をとらえて核燃料の取り出しなど必要な措置を取ると主張。規制委も、この主張を了承し、九電に対して巨大噴火の可能性が十分小さい状態が継続していることを確認するため、火山のモニタリング(監視)を求めました。

観測例なし

 しかし、巨大噴火については科学的な観測例がなく、どのような発生過程をたどるかなど分かっていないことが多いのが実情です。火山学者からは、巨大噴火の時期や規模を予知できるモニタリング技術はないと批判されています。

 規制委は、火山の状態に変化があった場合には、原発の停止を求めることもあるとしていますが、その判断基準はいまだに具体化されていません。

 今回の研究の目的には「過去のカルデラ火山活動の長期的な活動評価手法」「モニタリングすべき項目の抽出」などが挙げられています。火山対策が義務付けられたものの、モニタリングや基準の具体化検討が泥縄式に行われており、規制委が川内原発の許可を出した判断についての科学的な合理性がなかったことを示しています。

 原子力の安全問題に詳しい舘野淳・元中央大学教授は「リスクを評価する手法が確立されていないことを認めていると言えます。リスクが存在していてもその評価手法が確立していない場合、動かすかどうかについては、少なくとも社会的同意が必要です。社会的合意がなければ、規制委の判断に正当性があるとはいえません」と指摘しています。

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