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2018年10月11日(木)

公立学校に変形制

教員の長時間労働に拍車

 教員の「働き方改革」を審議している文部科学省中央教育審議会の部会で、公立学校の教員への1年単位の変形労働時間制(変形制)の適用が議論になっています。教育関係者からは、教員の長時間労働がいっそうひどくなると批判があがっています。(佐久間亮)

 議論の震源は自民党です。同党の教育再生実行本部の部会が5月に出した提言は、学期中の長時間労働を夏休みなどの休業期間で調整すれば教員にとっても「メリットが大きい」とし、1年単位の変形制導入の検討を政府に求めました。

 中教審の部会では小川正人部会長(放送大学教授)が▽変形制は民間企業で広く導入されている▽変形制の残業時間の上限が通常より厳しい―などとして「(変形制を)長時間勤務を減らす梃子(てこ)にしていく考え方があってもいい」と前向きな姿勢です。

 通常の労働契約では、規定の勤務時間を超えて労働者を働かせれば残業代(割増賃金)を払います。一方、1年単位の変形労働時間制では、1日8時間を超えて働く日があっても、年間通じて労働時間が平均週40時間以内に収まれば残業代を払わなくてもよくなります(労働時間の限度は1日10時間、1週52時間)。

 対象期間の労働日や各日の労働時間は労使で事前に決める縛りがあるものの、実際は企業の都合で直前に労働時間を変更したり、限度を超える労働時間を割り当てたりする違法行為が横行しています。

 ヤマト運輸による変形制を悪用した残業代未払い問題の労働審判を担当した穂積匡史(まさし)弁護士は「変形制が違法に使われている実態を見ずに、民間で広まっているから是とするのは問題だ」と指摘します。

 「そもそも変形制は総労働時間を減らす制度ではなく、残業代を抑制する制度ですから、長時間労働を解消するてこにはなりません。教員の長時間労働の原因は多すぎる業務量にあります。労働時間を管理する制度を変更したら解決するというのは筋違いです」

 変形制が長時間労働につながることは公的機関の調査でも明らかになっています。

 独立行政法人の労働政策研究・研修機構が2014年に実施した民間企業に対する調査では、労働時間が月200時間を超えた労働者の割合は「通常の労働時間制」で25・2%だったのに対し、「1年単位の変形労働時間制」では40・1%に。明らかに過労死ラインを超えている月250時間超の割合は2倍に上ります。

年休さえ消化できない

 「夏休み中も教員は研修や出張、個人面談、家庭訪問、部活動などやることが大量にある。夏季休暇や年休さえも消化できないのが現実。学期中の超過勤務を休業期間でならすといっても、その条件がない」

 全日本教職員組合の米田雅幸副委員長は、変形制の議論は教育現場の実態を踏まえていないと批判します。

 実際、文科省の06年の「教員勤務実態調査」では、夏休み中も小中学校教員は1日平均21分の残業をしていました。最新の16年の調査では夏休み期間の調査はしていないものの勤務時間は06年と比べ1日平均30~40分増加し、12時間近くに上っています。長時間労働がますます深刻になり、小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が過労死ラインを超える働き方をしていることが明らかになっています。

 そもそも教員の勤務時間について定めた「給特法」は教員の超過勤務を原則禁止し、それを前提に時間外勤務手当を払わないこととしています。

 米田さんは、給特法の下でもただ働きの超過勤務がまん延しているのに、1日10時間まで働くことを認める変形制が導入されれば10時間勤務が当たり前になると危惧します。

 「教員の働き方は自発的・創造的なものなので労働時間の整理が難しい。10時間を超えた部分は勤務と認められなくなり、長時間労働の実態が隠されることになりかねない。長時間労働の是正には、教職員定数の抜本的な改善による業務量の削減、少人数学級の推進、時間外勤務に手当を支払う給特法の改正こそ必要です」

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