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2022年4月3日(日)

経済安保法案 日本を米戦略に組み込む

国会審議で明らかに

 岸田政権の重要法案である経済安全保障法案。「国家・国民の安全を害する行為を未然に防止するため」と言いますが、その実態は―。日本共産党の笠井亮、塩川鉄也両衆院議員による追及で、経済政策を国家安全保障の一つの柱として外交・防衛政策と並列で掲げ、軍事・経済の両面で日本が米国の世界戦略に組み込まれようとしていることが明らかになっています。(日隈広志)

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(写真)質問する笠井亮議員=3月17日、衆院本会議

企業の選別と監視強化

 法案は、(1)サプライチェーン(供給網)強化(2)基幹インフラ強化(3)官民技術協力の推進(4)特許非公開の導入―の4本柱を掲げています。「外部から行われる行為」から国家・国民を守るとしていますが、自然災害や感染症、気候危機は含まれず、政府が指定する「特定重要物資」の対象に、食料やエネルギーは既存の法体系があるとして除外するなど、国民の生活実感からかけ離れています。

 法案では、電気、水道など基幹インフラの事業者に、新設備の導入や維持管理の委託に関して納品業者や委託業者まで事前に届け出させ、政府が審査し勧告・命令まで行えるようにします。現在、政府調達においてIT設備導入や維持管理の際に行っている事前審査は、判断・審査基準も明らかになっていません。これを基幹インフラ事業者にも広げようというのです。

 また、「特定重要物資」を供給する民間企業にも、供給先や取引先なども記載した安定供給のための計画を提出させます。

 経済界からも懸念の声が上がっており、「下請け、取引先企業を選別、監視する仕組み」(笠井氏、3月25日)そのものです。

政官業の癒着をまねく

 法案は、「特定重要物資」の供給事業者に営業秘密を含む情報を報告させる見返りに、支援策を用意しています。新たな生産設備、生産技術や代替物資の研究開発などに対して、新設の「安定供給確保支援法人基金」の助成を可能としています。この支援法人は業界団体が想定されており、基金の規模や補助の上限も未定で巨額となることも想定されます。「政府の判断で指定した特定重要物資に、特別な支援をおこなうことには、特別扱いの懸念」(塩川氏、4月1日)がぬぐえません。

 また、法案は、「特定重要物資」、審査対象の基幹インフラの指定など重要な事項が138カ所も政省令にゆだねられており、「政府の一存で決まり、白紙委任だと言われても仕方ない」(塩川氏、3月23日)ものです。

 そして、国家安全保障局(NSS)が国家安全保障政策としての外交・防衛政策と一体に経済政策をつかさどるよう体制を改変。この法案に基づく企画立案・総合調整、事務は内閣府が担いますが、NSSが“司令塔”となり、官邸トップダウンが強まります。

 この仕組みのもとでは企業は政府の顔色をうかがうようになり、政官業の癒着が避けられません。

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(写真)参考人に質問する塩川鉄也議員=3月31日、衆院内閣委

巨額の軍事研究開発費

 法案は、AIなど先端的な「特定重要技術」の研究開発を推進する官民技術協力を盛り込んでいます。「指定基金」として想定されているのは、2500億円が計上された「経済安全保障重要技術プログラム」(21年度補正予算)。この基金を利用すると、自動的に「協議会」が設置され、政府から機微情報の共有など積極的な「伴走支援」が行われます。

 その研究成果は、「関係府省において公的利用につなげていく」と明示。政府は軍民両用技術(デュアルユース技術)の強化を狙っています。笠井、塩川両氏の追及を受け、「協議会」への防衛省の参加を否定せず、研究成果が軍事技術として「将来的に防衛省の判断で活用されることはあり得る」と認めました。

 また、これまで研究開発において設けられてこなかった、機微情報を扱う者に対する罰則付きでの守秘義務を課しています。このようなやり方では、「研究活動に大きな制約を持ち込む」(塩川氏、3月30日)ことになります。

 参考人質疑(同31日)で、井原聰(東北大名誉教授)参考人は防衛省の「伴走支援」が「軍事研究推進になりかねない」と警告。競争的研究費を乱発すれば基礎研究がおろそかになると指摘し、「裾野の広い、自発的な研究土壌」でこそ人類の発展に寄与する学問が育つと訴えました。

 また、法案には政府が指定する「特定技術分野」において特許出願非公開制度が導入されています。笠井氏は、民生技術が軍事技術に吸収されて戦争遂行に動員された戦前の秘密特許制度の復活に他ならないと断じました(同17日)。

日米一体の軍事力強化

 経済安保法案が出てきた背景は何でしょうか。笠井氏は軍事、経済をめぐる米中の覇権争いが先鋭化しており、日本が米国の戦略に組み込まれていくと指摘。岸田首相らは「我が国として主体的に国益を確保していく」「米国の戦略に組み込むものではない」と繰り返します。

 しかし、日米両国のサイバーセキュリティー能力を構築するとの合意(21年4月の日米首脳会談)のもとで、経産省所管の「産業サイバーセキュリティセンター」(IPA)ですでに、米国政府・軍関係者が講師となるなど、密接な関係にあることを笠井氏が明らかにしました。

 岸田首相は今年1月のバイデン米大統領との首脳会談で、強固な日米同盟の下、経済安全保障で緊密に連携することを確認し、閣僚レベルの経済版2プラス2の立ち上げに合意しました。「(日米合意を)日本国内で推進するのが本法案ということだな」との笠井氏の追及に、小林担当相は「経済版『2プラス2』と経済安保法案は直接の関係はない」と繰り返し答弁する一方で「必要に応じて連携を図っていく」(3月25日)と述べています。

 さらに法案は、日米一体となった軍事力強化の新たな枠組みとなる危険があります。特許非公開の対象となる「特定技術分野」の発明は、外国への出願も禁止。米国とはすでに、防衛特許協定を締結しており、米国の特許法により秘密とされている発明が日本で出願された場合、特許は公開が原則の日本でも秘密特許として扱い、自衛隊の装備品や武器生産の技術援助を受けています。

 小林担当相は、笠井氏の追及に対し「これまで片務的なものだったのが双務的になる」とあけすけに日米同盟強化を語りました。

秘密保護法の拡大へ

 この法案の先には、個人の身辺調査制度の「セキュリティー・クリアランス(適性評価制度)」の導入が検討されています。

 小林鷹之担当相は、この制度について検討課題だと答弁しており、経済産業省産業構造審議会の小委員会では「セキュリティー・クリアランスを含む産業保全について検討すべき」と取りまとめられ、自民党内からも導入の検討が提言されています。

 また、21年7月までNSS局長だった北村滋氏は「同法(秘密保護法)はあくまで国家内部に存する秘密の保全に主眼が置かれている」「今後、民間事業者を対象とした機密取り扱いの資格制度の導入が急がれる」と著書(『情報と国家』)に記しています。秘密保護法制の拡大につながり、「プライバシー、学問の自由の侵害、労働者の不利益取り扱いを含め深刻な人権侵害が生じかねない」(塩川氏、22年3月31日)問題です。

経済安保法案の概要

サプライチェーン(供給網)の強化
重要物資の供給網を国が調査。生産基盤整備を国が財政・金融支援。青天井の恐れ
基幹インフラの強化
納入業者や委託業者にまで国が事前審査。政官業の癒着を招く仕組み
官民技術協力
先端技術の官民協議会への防衛省参加で、軍事技術推進の恐れ。協議会メンバーには罰則付き守秘義務。秘密保護法制の拡大に
特許非公開の導入
機微技術の特許出願を非公開に。日米で秘密特許を共有し一体化。憲法9条のもとで公開が原則の特許法に穴をあける

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