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2022年2月10日(木)

グループホーム退去へ厚労省が“改悪議論”

追い出しが狙いか

利用者ら「軽度」でも「1人暮らし無理」

 厚生労働省は現在、障害者総合支援法の改定に向けて議論を進めています。そこで障害当事者らから懸念の声が上がっているのが、グループホーム(GH)利用者を一定期間後に「1人暮らし」させる新たな仕組みを設けようという議論です。障害当事者らは、利用期間を限定しないで―と訴えています。(津久井佑希)


 「ベーカリーの仕事は良い汗が流せて、さわやか、爽快。サンドイッチ用のゆで卵の殻むきが特に好き」。笑顔でそう話す村田勇(いさむ)さん(42)。埼玉県日高市のGHで生活しながら、日中は同市の「第3かわせみ ふわふわ」で、パンなどを作る仕事をしています。

 実家で両親と生活していました。糖尿病と若年性関節リウマチ、潰瘍性大腸炎の持病があるにもかかわらず、たびたび食べ過ぎてしまっていました。バランスの良い食事と規則正しい生活が必要だと、2011年7月に社会福祉法人日和田会のGHに入居しました。

 一軒家を改装したGHで、他の3人と暮らします。職員や看護師の支援と栄養バランスを考慮した食事で、村田さんの体調は改善しました。「おいしいけど量は全然足りない」と笑います。

 軽度の知的障害のある村田さん。「自分一人で食事を作ったり、難しい書類を書くのは困っちゃう。1人暮らしは全然興味ありません」。帰省すると食べ過ぎるため、GHでの暮らしは不可欠です。

職員も困惑

 厚労省は、障害者総合支援法改定に向けた中間まとめで、1人暮らしを「希望」する人がいると指摘。議論の中では、入居期限を設定したGHのあり方が示されました。本人の希望でGHの種類を「選択できる仕組みとすることが考えられる」としています。

 GH近くのアパートなどで自立へ向けて1人暮らしする障害者を職員が支援する仕組みはすでにあります。

 「その制度で十分だと思う」。そう話すのは、村田さんが暮らすGH施設長の福重玉枝さん(70)です。選択できる仕組みであっても、「知的障害のある人の中には、本音ではなく周りの人の意向に沿うように答えてしまう人もいる」と指摘します。

 障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会の家平悟事務局次長は「もともと障害が軽い人が対象だったGHに、国は重度の人も入れるように見直してきた。利用者が増えたので、国は軽度の人を追い出す意向があるのでは」と語ります。

 職員の恵島(えじま)健太朗さん(38)は「障害が軽いから『じゃあ○年で1人暮らしだね』というのはできないだろう」と首をかしげます。「障害が軽くて1人暮らしできるような人は比較的社会との接点が濃く、その部分に対するサポートが多くなる」と指摘。異性間の問題や出会い系サイト、悪質サイトなどに引っかかってしまうなどのトラブルがあるといいます。

 中間まとめは、GH退居後の訪問や相談などの支援の必要性も示しています。恵島さんは「障害福祉分野は担い手が全然足りていない」と首を振ります。

支援不十分

 家平事務局次長は「1人暮らしへの総合的支援が未整備のなかで“追い出す”ことだけが先行することは問題」だと批判。そのうえで「いまのGH制度は生活を全面的に支えるものになっていない。一つのGHを1人の世話人で支援しているところも多い。報酬単価を抜本的に引き上げて専門集団としての職員体制を確立したGH制度にしなければならない」と強調します。

 前出の村田さんは、新たな仕組みのことを考えると眠れないときもあったと振り返り、こう続けます。

 「僕自身はもちろん、障害が軽い仲間をGHから追い出さないでほしい」


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