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2022年2月2日(水)

「人権より捜査優先」

DNA型抹消命令

国が控訴 原告側批判

 無罪が確定したにもかかわらず警察庁が保管したままの自身のDNA型などの3データの削除を求めて男性が起こした訴訟で、国に削除を命じた名古屋地裁判決が不服として1月31日、国は名古屋高裁に控訴しました。


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(写真)抹消を命じる名古屋地裁判決直後に支援者らに報告する奥田恭正さん(左端)ら=1月18日、名古屋市中区

 先月18日の名古屋地裁判決は、警察庁が「被疑者データベース」として保管するDNA型、指紋、顔写真の削除を認めた初めての判決とみられます。

 国側の控訴を受けて、原告の奥田恭正さん(65)=名古屋市=の國田武二郎弁護団長は声明文を発表。「今回の国の対応は、最も尊重されるべき人権よりも捜査の便宜を優先したものであり、はなはだ遺憾」としています。

 奥田さん側も、地裁判決が、国と愛知県などへの損害賠償請求や警察が収集した奥田さんの携帯電話のデータ消去を却下したことを不服として控訴しました。

 奥田さんは地元で計画された高層マンション建設に反対する住民運動に参加。2016年に現場監督を突き飛ばしたとでっち上げられて逮捕・起訴されました。18年に名古屋地裁は奥田さんに無罪を言い渡し、検察が控訴することなく無罪が確定していました。

 奥田さんは「(削除を命じた判決は)『余罪や再犯の可能性を(私に)認めることは困難』と述べて、事件前の真っ白な私に戻すよう国に命じてくれた。警察が一般人のものであっても1人でも多くのデータを集め、一度集めた物は絶対に消したくないと考えているなら怖いことだ」と語りました。

 國田弁護士は「不起訴処分になった人がデータ削除を求めて敗訴した判例が私の知る限り7件ある。奥田さんが完全無罪だったことをよりどころにこの裁判をたたかってきた。奥田さんは18年の無罪判決から、理由無くプライバシー侵害を受け続けている状態だ」と批判しました。

解説

灰色運用許されぬ

 警察庁が「被疑者データベース」に保管するDNA型など3データの削除を命じた名古屋地裁の判決は画期的な判決でした。

 判決は「犯罪の証明がないとして否定され、確定した以上は、それ以降の保管の根拠が薄弱」だと指摘。「指紋及びDNA型がデータベース化され半永久的に使用される状況があれば、程度はともかくとしても、国民の私生活上の利益に対する制約が看取できるものといわざるをえない」とのべています。

 いま、日本の法律にDNA型の収集や保管をルールづけたものはありません。

 欧米や韓国、台湾などが法律で規制しているのに対し、日本の警察のフリーハンドぶりは明らか。判決でも「(情報の)保護の観点からは脆弱(ぜいじゃく)な規定に留(とど)まっている」「諸外国の立法例も参照すればなおさら顕著」と言及したのは当然です。

 日本共産党の本村伸子衆院議員が警察庁に請求し、入手した資料によればDNA型の「被疑者データ」の登録件数は昨年末時点で累計153万件超となっています。

 近年、DNA型は毎年15万件ペースで収集され、データベース化されています。もともと法的根拠のないDNA型採取が、“任意捜査”の名目で着々と進められているのは問題です。

 元北海道警幹部で、裏金を告発した故原田宏二さんは、刑事訴訟法に基づかないやり方を「グレー(灰色)ゾーン捜査」と呼び、存在感を増すデジタル捜査への法的規制を後回しにする警察に警鐘を鳴らしてきました。

 今回の控訴も、法的規制なく灰色の運用を灰色にし続けたい警察庁の狙いがみえます。

 原告の奥田さんは「真っ白な自分に戻して」と今回の抹消訴訟を起こしました。無罪となった人のデータは真っ白に。いつまでも灰色運用は許されません。

 (矢野昌弘)


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