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2021年10月18日(月)

シリーズ検証 安倍・菅政権の9年

放送に介入・支配(上)

NHK 会長・経営委人事で“掌握”

民放 “電波停止”の脅しで圧力

 岸田文雄政権が誕生した自民党総裁選をめぐって、各テレビ局とも大騒ぎを繰り広げ、安倍・菅政治9年間の「負の遺産」を検証することはごく一部でした。結果として自民党の支持率アップにつながりました。テレビはなぜ、こんなに政権監視の力が衰えてしまったのか―。この9年間、テレビに何があったのか、総選挙公示を前に放送への介入と支配の流れを改めて検証します。

 (「放送への政治介入」検証チーム)


写真

(写真)「怒っています」と会見するテレビキャスターたち=2016年2月29日、日本記者クラブ

 2012年の第2次安倍内閣発足後、安倍首相が放送支配の道具としたのは「人事」と「放送法」でした。まずは公共放送NHKを狙います。(肩書はすべて当時)

 13年11月。NHK経営委員(定員12人)に安倍首相と近い、長谷川三千子(埼玉大学名誉教授)、百田尚樹(作家)ら4氏が送り込まれます。経営委員会は、新会長に籾井勝人氏を選びました。

 14年1月。籾井新会長は就任会見で「政府が『右』と言っているのに、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と発言。以後、秘密保護法、戦争法と、国論を二分する問題でNHKは政府寄りの報道を続けます。

 例えば、集団的自衛権の行使容認を閣議決定した14年7月1日までの1カ月半、NHK「ニュースウオッチ9」は政府側の動きの報道時間が約114分だったのに対し、反対の動きはたったの77秒でした(元NHKディレクターの故・戸崎賢二氏調べ)。

 会長に籾井氏を据えた政権側の策動が功を奏したといえます。

陰に陽に

 しかし民放は「人事」では動かせません。14年から16年にかけて、陰に陽に露骨な圧力を加えていきます。

 総選挙を前にした14年11月。安倍首相は出演したTBS系「news23」で、番組が伝えた街の声が“アベノミクスの恩恵を感じない”ものばかりだと憤りました。

 自民党は同月、総選挙時の報道について在京各テレビ局に要請を送ります。“街頭インタビューでは一方的な意見に偏ることのないよう”など「公平中立」を強調する中身でした。

 評論家の古賀茂明氏は15年1月、朝日系「報道ステーション」で安倍首相の言動が日本人全ての意見ではないとの考えから「アイアムノット安倍」とコメントしました。同3月、番組コメンテーターを降板するにあたり「菅官房長官をはじめ官邸にバッシングを受けてきた」と発言しました。

 高市早苗総務相の「停波」発言は16年2月です。放送法4条の「政治的公平」に反すると総務相が判断した場合、電波法に基づき放送電波の停止(停波)を命じる可能性があるというのです。

 電波法は放送設備に関する法律で、設備上の不備があれば放送に支障をきたすので停波もありますが、放送の内容にかかわって電波法を適用するのは想定されていません。事実上、総務相の意向次第で停波命令ができるという強権を意味します。

 高市氏の発言に対しては、テレビキャスター有志が「私たちは怒っています」と記者会見で抗議。「政治的公平性は権力が判断するものではない」と批判しました。

 からめ手からの干渉もありました。

 15年11月。右派文化人グループが「産経」と「読売」に、1ページ全面広告を出しました。戦争法に真っ向から反対する「news23」アンカーの岸井成格(しげただ)氏に対し「放送法違反だ」と個人攻撃したのです。

3氏降板

 16年3月、決定的な事態が起こります。NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子、「報ステ」の古舘伊知郎、「news23」の岸井成格の3氏がそろって降板したのです。

 国谷氏は14年7月、菅官房長官に集団的自衛権の容認について“日本が戦争に巻き込まれる危険性は無いのか”と角度を変えて何度も尋ねました。それに対し菅氏が激怒したといわれています。

 以降、放送ジャーナリズムにおける権力の監視や、視聴者の知る権利の保障の観点で発言するキャスターやコメンテーターが減っていきました。


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