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2021年9月12日(日)

気候危機打開へ CO2 Zero

気候危機 どう臨む 日本共産党「2030戦略」の意義

対談 東北大学教授 明日香壽川さん 衆院議員 笠井亮さん

明日香さん 科学の警告に政治が応える時

笠井さん 非常事態 CO2削減を緊急に

 日本共産党は今月1日、2030年度までに二酸化炭素(CO2)を50~60%削減(10年度比)するという目標を盛り込んだ「気候危機を打開する日本共産党の2030戦略」を発表しました。気候変動をめぐる世界の動向やそのなかでの同戦略の積極的意義について、東北大学教授の明日香壽川(じゅせん)さん(環境エネルギー政策専攻)と、日本共産党衆院議員の笠井亮さん(党原発・気候変動・エネルギー問題対策委員会責任者)が話し合いました。


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(写真)明日香壽川・東北大学教授(左)と笠井亮衆院議員

立場の違い超え

 笠井 「2030戦略」は総選挙政策の第1弾として発表しました。「未来に希望が灯(とも)って心が熱くなりました」「気候危機に取り組んでいる研究者や活動家の主張がもれなく入った内容」といった感想や意見がさっそく寄せられています。志位和夫委員長の記者会見の動画視聴は8日時点で5万4000回。人類の未来がかかる身近な問題としてなんとかしなくてはいけないと思う人たちに響いています。気候危機打開を総選挙の大きな争点として訴えていきたい。

 明日香 この問題を前面に出して大いに議論を広げていただきたいですね。

 笠井 「2030戦略」は、気候危機の問題を政党として正面から取り上げる必要があると考え、世界の科学的知見の到達点を学びながら、日本の環境団体や専門家の研究・提言を踏まえ、半年間かけて練りあげました。世界と日本で気候危機というべき非常事態が起こっており、主要な原因・CO2削減に向けて思い切った緊急行動が求められる、立場の違いを超えてしなければいけない問題です。

人間活動の影響

 明日香 戦略の名称にあるように、まさに気候危機が今の状況を表している言葉だと思います。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という科学者の世界的組織が最新の第6次報告書を8月に出しました。そこで示されたのは、今の異常気象は人間が原因で、このままでは異常気象なり極端な気象による災害がもっと大きくなると。温暖化と人間の影響の関連について今回の報告書は、「疑う余地がない」と断言しています。第5次報告書では95%以上の確率だとしていましたが、そういう表現はやめています。

 まさに科学者はこういうことをメッセージにしている。それを受け止めて行動に移すのは政治です。

 笠井 コロナパンデミック(世界的流行)の渦中ですが、地球温暖化は感染症流行の要因の一つとされています。ストップをかけることは待ったなしで、力を合わせて地球と命を守るため気候危機打開に向けて政治が何をなすべきか―この問題を正面から提起しました。

 明日香 コロナと気候変動問題は、科学者の言うことを聞かないことと、自分は被害者にも加害者にもならないと勝手に思い込むことが共通しています。

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30年までに50―60%削減は可能です

明日香さん 数字で示した雇用増 野党共通の政策ぜひ

笠井さん 省エネ再エネ脱炭素 持続的成長の道開く

 笠井 解決のために残された時間はわずかしかありません。私もIPCCの報告書を読みました。科学は仕事をした、それにこたえて政治が仕事をする番だと改めて痛感しました。執筆にあたった科学者は「科学は精緻になった」と話していました。受け止めなくてはいけないと思ったのは、2021年から40年までの間に世界の平均気温が産業革命前に比べて1・5度上昇する可能性が高く、今世紀末に後戻りできない破局になりかねないということ、同時に温室効果ガスを強力に持続的に削減すれば「気候変動の影響は抑えられるだろう」ともいっていることです。50年までに排出を実質ゼロ、さらに減らせば今世紀末に1・5度以内は可能だと。

 世界では30年までに、EUが55%、英国が68%、米国が50~52%と野心的目標に挑戦しています。EUが熱心なのは、「それは科学」との答えにさすがと思いました。

 明日香 実はIPCCは、政治と意識的に一歩離れています。こうなったらこうなる、こうしなかったらこうなると言うだけです。それを受けて何をするかは、政治家なり国民なりに任されています。なので、国民が選んだ政治家の判断や行動は非常に重要です。

科学無視の政権

 笠井 科学に正面から向き合う姿勢があるかという点では、日本の今の自公政権はコロナ対策でもそうですが、科学を無視する政治にしがみついています。

 政府は「2050年カーボンゼロ(CO2はじめ温室効果ガス排出の実質ゼロ)」といったけれども、率直に言って口先だけになっています。一番肝心な30年度までの削減目標は46%(13年比)。国連が示した10年比45%削減目標でみると、10年比で42%と世界平均より低く、これで主要国の責任を果たせるのかと。また、この期に及んで石炭火力にしがみつき、最悪の環境破壊をもたらす原発頼みを続けています。さらに、実用化のめどが立っていない「革新的技術」を前提にしている点が問題です。

 明日香 政府がいう「革新的技術」は、いわゆるスケープゴート(身代わりの意)です。背景にあるのは、今の原発や化石燃料に依存するエネルギーシステムをとりあえず維持したいという思惑です。私たちの「レポート2030」でも、9割以上は今の省エネ技術、再エネ技術を普及することでCO2は減らすことができると。将来的に革新的技術が必要になる分野はありますが、現時点での優先順位は低いです。

 笠井 「2030戦略」では、削減目標については30年度までに50~60%削減とする。どう実現するか。省エネでエネルギー消費を40%削減し、再生可能エネルギーで電力の50%をまかなえば達成できる。目標実現のかなめは省エネと再エネです。徹底した省エネでエネルギー需要を削減し、残った需要をまかなう再エネ導入によって脱炭素のエネルギー供給にあてる。電力、産業、運輸、都市・住宅の断熱化などあらゆる分野の大改革を具体的に提案しました。

 明日香 何をしなければならないかでは、どの研究者、グループもほぼ同じで、再エネを増やす、省エネを産業、業務、家庭、運輸のそれぞれの部門で努力すると。省エネは、すでにお手本があり技術もある。運輸なら電気自動車があり、世界がそう動いている。逆に日本が対応しないと自動車産業が大変になります。しかし、化石燃料をつくり、売り、使っている人たちはエネルギーシステムを維持したいので抵抗する。日本の場合、今までのシステムで利益を得ていた企業の声が非常に強く、政治的にどう切り返すか、リーダーシップが求められます。

 笠井 目先のもうけさえ増やせばいい、あとは野となれ山となれの新自由主義との決別が必要です。財界中心の政治のゆがみを正さなければいけない。気候危機の打開は、格差と貧困をなくし暮らしをよくすることと一体の取り組みが必要です。

 それによってこそ、みんなが力を合わせて気候危機の打開に取り組む土台ができます。

 強調したいのは、脱炭素とか省エネ、再エネというと、イメージとして経済の停滞とか衰退を浮かべることもありますが、そうではないということです。明日香さんたちのグループの試算で、年間で254万人の新たな雇用が増え、GDPも累積205兆円増やすことができると。脱炭素で循環型の社会をめざしていくというグリーン・リカバリー(緑の復興)でこそ持続可能な発展が可能になるんだという希望がある。

雇用転換が重要

 明日香 雇用転換をどうやるかは気候変動問題で一番重要です。日本では過去、炭鉱を閉めたことがありますが、そういうレベルの変化が世界中で起きています。

 この10年間で一番大きな変化は、再エネのコスト、例えば太陽光パネルでは約10分の1になったことです。「脱炭素はコストがかかるので後回しにすべきだ」と信じ込まされてきましたが、今は世界の約3分の2の国で、再エネが最も安い、あるいは肩を並べる発電エネルギー技術になっているという調査結果もあります。

 日本政府の最近の試算でも、一番安いのは原発でなく、太陽光になると初めて認めました。日本でもそういう変化が起き、それを実感できる状況です。導入量が増加すればもっともっと安くなります。

 笠井 再エネの日本における潜在量は、政府試算でも現在の国内電力需要量の5倍と見積もられている。再エネによる電力を30年までに現在の倍の50%、50年までに100%にすることは十分に可能な目標です。世界では、自社製品やサービスの提供をはじめ事業を100%再エネで行うという「RE100」の運動が広がっています。

 明日香 米国のバイデン政権が議会で通そうとしている法案は、30年に電力分野の二酸化炭素排出を80%削減して、35年に排出をゼロにする。日本は石炭火力も止められない状況ですが、あちらは天然ガスも止める。そのためにクリーン電力割合の制度をつくり、電力会社の再エネの割合を8割、9割にする。これができれば補助金を出し、できないと罰金を課す。日本が再エネの割合を増やせないというのは、日本に科学的、技術的な力も政治的な力もないと宣言しているようなものです。

 笠井 まさに政治的決断。そういう方向に経済を切り替えていく、そのための政治の仕事が大事ですね。

 明日香 エネルギー転換のために積極的な雇用政策や財政政策が必要で、その先に豊かで安全で公平な日本があると政治がぜひ発信してほしい。私たちの「レポート2030」の最大のポイントは、これだけ雇用が増えると数字を具体的に出したことで、ぜひ野党共通のエネルギー政策の形で実現してほしい。

 笠井 総選挙でも、脱炭素・省エネ・再エネの道が寂しい衰退の経済と社会になるのではなく、もっと豊かな持続的成長の道であることを大いに語っていきたい。

 明日香 期待しています。


 あすか・じゅせん 東北大学東北アジア研究センター・同大学院環境科学研究科教授。近著に『グリーン・ニューディール』(岩波新書)。「未来のためのエネルギー転換研究グループ」として2月、『レポート2030~グリーン・リカバリーと2050年カーボン・ニュートラルを実現する2030年までのロードマップ』を発表。


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